写真●東急ハンズの長谷川秀樹執行役員オムニチャネル推進部長
写真●東急ハンズの長谷川秀樹執行役員オムニチャネル推進部長
写真=新関雅士
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 「僕がやってきたことなんて誰もが考えつくことだし、皆がやったほうがよいと思っていたことばかり。ただ違うのは、実際に『やってみた』ということだけ」。

 東急ハンズのCIO(最高情報責任者)である長谷川秀樹執行役員オムニチャネル推進部長(写真)にお会いしたときのことだ。次々と進めてきた改革の発想はどこから来るのかと質問したところ、こうした答えが返ってきた。

 もちろん謙遜はあるのだろう。それでも筆者は少し驚いた。企業内で改革を進めるリーダーは特別な存在であると無意識のうちに思い込んでいたからだ。長谷川氏は流通業の業務に精通し、バイタリティーがあり、人間的な魅力を持つ人である。それだけに、改革を担う人材になるには相応の素養が必要で、そのほかの一般人とは違う発想力を持っていると考えていた。

 そうした筆者の考えは完全否定された。長谷川氏の考えでは「改革リーダー」とそのほかの者とを分け隔てているものは紙一重で、実行に移すかどうかだけである、というのである。

物流改革、ソーシャル活用、内製化、クラウド化を実施

 長谷川氏のコメントを理解するには、同氏の進めてきた改革について説明する必要があるだろう。長谷川氏は2008年、コンサルティング会社のアクセンチュアから東急ハンズのIT部門に転職した。当初与えられたミッションは、物流システムと物流業務の改革だった。それまで同社では、仕入れから販売までを店舗の権限で実施していたが、本部が一括して仕入れるように変更した。これにより価格交渉力を向上させた。店舗ごとに個別に営業しなければならなかった取引先にも営業対象が1カ所になるというメリットをもたらした

 同時に物流倉庫を撤廃する。それまではサプライヤーから物流倉庫を経由し、各店舗へ配送していたが、サプライヤーから直接店舗に配送するように変更した。直接配送に変更した場合、そのままでは店舗での商品仕分けが必要になり、店舗担当者の業務負荷が高まる。そうしないために長谷川氏は、委託する物流業者の数を絞り込む代わりに、仕分け作業を物流業者に負担してもらうことにする。こうして店舗担当者の負荷を高めずに物流倉庫の運用費削減に成功した。この施策だけで年間数億円のコスト削減効果があったとみられる。