「データサイエンティスト」とは一体全体、どのような職業を指す言葉なのだろう。そう呼称される多くの方に取材したものの、まだ私の頭の中では納得のいく像を思い描けずにいる。

 データサイエンティストは一般に、高度な統計解析ツールを使いこなし、大量のデータを収集、加工、分析してビジネスに生かす職種とされる。2009年2月、米グーグル チーフエコノミストのハル・バリアン氏は「今後10年で最もセクシーな職業は統計家だ」と発言。さらに、米ハーバード・ビジネス・レビューの2012年10月号は、データサイエンティストを「21世紀で最もセクシーな職業」と表現した。

 ふむ、何かヒントはないものかと、データサイエンティストを「最もセクシーな職業」と表現した張本人、トーマス・H・ダベンポート氏の近著「データ・アナリティクス3.0(原題:Big Data at Work)」を読んでみた。ダベンポート氏は、データサイエンティストに求められる典型的な能力を以下のように類型化している。

(1)ハッカー(プログラミング、Hadoop運用などのITスキル)
(2)サイエンティスト(科学的根拠に基づく意思決定力)
(3)アドバイザー(コミュニケーション能力)
(4)計量アナリスト(統計分析能力)
(5)ビジネス・エキスパート(ビジネスへの理解力)

 …こんなスキルセットを"全て"持つ人材がいれば、まさにスーパービジネスパーソンだ。あまりに理想像すぎて、かえって具体的なイメージがわかない。実際、ダベンポート氏は、複数のスキルを持つ水平型データサイエンティストが理想としつつ、チームで互いの能力を補うことを提唱している。

 氏が掲げたスキルのうち、(3)アドバイザーや(5)ビジネス・エキスパートは、ビジネスパーソンなら誰しも強みになるスキルである。データサイエンティスト特有の強みといえるのは、(1)ハッカー、(2)サイエンティスト、(4)計量アナリストだろうか。統計分析の手法を身につけ、ITにも習熟した理系の博士号取得者、という古典的な像が頭に浮かぶ。

 だが、実際にデータを使いこなす立場にあるユーザー企業の担当者と話していると、違った像が見えてくる。プログラミングや統計分析の知識は、必ずしもデータサイエンティストを特徴付けるスキルではないというのだ。

「文系でもデータサイエンティストになれる」

 第2回データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー受賞者、日本航空(JAL) Web販売部 1to1マーケティンググループ アシスタントマネジャーの渋谷直正氏は「文系でもデータサイエンティストになれる」と主張してはばからない。データサイエンティストの必須要件は「ビジネスのバックグラウンドと問題意識の強さ」であり、理系か文系かは二の次だという。