「イノベーションは突然、良いアイデアが思い浮かんで起こると思っている人が多いかもしれません。しかし、それは違います。実はイノベーションは既存の要素の組み合わせから起こることが多い、と証明されているのです。それをパターン化して、パッケージにしました」。

 2017年10月にSAPジャパンが開催した記者発表会で、同社の福田譲社長はこう強調した。記者発表会のテーマは、欧州SAPがERP(統合基幹業務システム)に次ぐ事業の柱として投入した「SAP Leonardo」についてだ。この記者会見の福田社長の言葉は非常に印象に残った。

 「SAP Leonardo」は、「デジタルトランスフォーメーションを支援するためのブランド名」(SAPジャパンの小野田 久視 IoT&Digital Supply Chain事業部 部長)だ。実態は、IoT(Internet of Things)やビッグデータ処理、データ分析などを支援するためのクラウドサービス群と、それを使ってシステムを構築するための導入方法論などを組み合わせたサービスとなる。

 Leonardoが支援するのは、「イノベーション案件」や「SoE(System of Engagement)」とも呼ばれる、新たなビジネスモデルや、収益源となるビジネスを支える情報システムの構築だ。IoTを取り入れたり、AI(人工知能)を活用したりと、新しい考え方や技術を取り入れながら創意工夫が必要な領域と言われている。明確な要件がなく、プロトタイプを作成するPoC(Proof of Concept)を重ねながら、新たなシステムを構築していくのが一般的だ。

 SAPがこれまで主力製品として提供しているERP(統合基幹業務システム)が支援するのは、「SoR(System of Record)」とも呼ばれる業務効率化を目指した情報システムだ。SoRとSoEは全く異なる世界で、SoEの世界では従来のウォーターフォール型のシステム開発手法やプロジェクト管理手法は通用しないと言われ、多くのITベンダーが異業種間で手を組むなどして、新たにSoE関連のシステム構築に取り組もうとしている。

 というのが、冒頭のSAPジャパンの福田社長の話を聞くまでの理解だった。

 ところが福田社長は、「イノベーションは標準化して、パッケージ化できる」と話す。Leonardoで提供するアプリケーションは基本的にクラウドサービスなので、ここでいう標準化やパッケージ化とは、「業務プロセスの標準を定義し、その実行を支援するためのアプリケーションを提供する」という意味になるだろう。SaaS(Software as a Service)に近く、パラメーター設定で利用可能なアプリケーションを指している。

 イノベーションは本当にパッケージ化できるのか。そして、それを利用して構築したシステムは企業の競争力の源泉となるのか。福田社長の記者会見の後に、欧州SAPでLeonardoに含まれるサービスの一つである「IoT-Moving Assets」の開発担当シニア・バイス・プレジデントを務めるステファン・ブランド氏に話を聞く機会を得た。

設備管理や予兆保全のIoTは「パッケージ化できる」

 ブランド氏は、自身が担当しているIoTを例に、イノベーションのパッケージ化について説明した。

 「IoTには二つの適用領域がある。一つは本当のイノベーションでアプリケーションを自社開発しなければならないもの。もう一つは、イノベーションであるがパッケージ化できるものだ」。