ハプティクス──。読者はこの言葉をご存じだろうか。おそらく多くの人は「知らない」または「2017年になって急に見聞きするようになった」のではないかと推測する。

 筆者も似たようなものだ。ハプティクスという単語自体は、スマートフォンのタッチに触感を与える機能などで数年前から耳にしてはいた。だが、それが意味するものや世の中に与えるインパクトの大きさを理解していなかった。だから関心も薄かった。

 ところが2017年春、「あるイベント」に参加して以来、筆者にとってハプティクスはちょっとした“ブーム”になっていった。頭の中にアンテナが立つと、次々とハプティクスの情報が飛び込んでくる。夏から秋にかけて様々なイベントがあるたびに、ハプティクスという言葉に出会う機会がますます増え、筆者と同じように注目する人も非常に多くなったと思う。

電話やテレビの発明に匹敵する革命

 ハプティクス(Haptics)とは何か。一言で言うと、人間の五感の1つである「触覚」を伝える技術である。ちなみに英語では触覚を「Touch(またはsense of touch)」と表現することが多い。ハプティクスは触覚そのものを指すというよりは「触覚を伝える(フィードバックする)」という意味で用いられる。

 このハプティクスが近い将来、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めている。大げさに聞こえるかもしれないが、筆者は「世の中を激変させる可能性さえある」と思い始めている。

 人間の五感のうち、聴覚は電話やラジオ、視覚はテレビの発明によって、離れた場所にいる人に伝達が可能になった。特に電話とテレビの普及は、それこそ世の中を変えた。今ではスマートフォン1台あれば、電話もかけられるし、テレビ(映像)も観られる。あまりにも当たり前なことなので、普段は視覚や聴覚の伝達を意識している人はほとんどいない。

 一方で、残り3つの感覚。味覚、嗅覚、そして触覚は、いまだに伝達や再現の手段が確立されていない。離れた場所にいながら、味やにおい、力加減を同じように感じられるようにするのは非常に難しい。だがいよいよ触覚は伝達して再現できる日が近づいてきた。モノを触ったときの目には見えない感覚を伝えて再現し、人が感じ取れるようになる。EC(電子商取引)サイトから遠隔医療まで、幅広い業界でニーズがありそうだ。