題名に入れた「ノーベル賞に無縁な我々」の「我々」とは誰かと言うと、本稿を読む読者の皆様そして筆者自身である。「無縁な人々」と書くと筆者が入らないので「我々」としてみた。ただし受賞者の姿勢から何が学べるかが主題なので、「私はノーベル賞を狙っている」という読者の方も読んでいただきたい。

 本稿に出てくる「受賞者」は中村修二氏(米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)である。授賞式はまだだから「ノーベル物理学賞の受賞が決まった人」あるいは「受賞することになった人」と書くべきだが『ノーベル賞に無縁な我々は受賞することになった人から「考える体力について学ぶ』では題名としてさすがに長いので「受賞者」とする。

 中村氏には6年前、日経コンピュータの創刊700号(2008年3月24日号)に登場してもらった。そのインタビュー記事の題名は『「考える体力」と「自由」』という。日経コンピュータ700号は130ページに及ぶ特集『創る』だけを掲載したので、中村氏に創造の極意を尋ねたところ題名に掲げた2点を答えてくれた。ノーベル賞の受賞が決まって以降、中村氏は取材を受けるたびに「自由」について述べているので、本稿は「考える体力」のほうを紹介する。

 「新しいモノを作る。できる研究者を作る。これが今やっていること」と中村氏は2008年のインタビューで語り、研究で成果を上げるために必要なことを挙げてくれた。

 知恵と体力、両方のバランスが大切なんです。考えて、実験して、その結果を見て、また考えて。(中略)考えるだけでなく、体を動かせるように自分を鍛えたことが、後の成功のカギだったように思います。(中略)良い発見や発明って案外、体力型の人がやってしまう。

 この発言を圧縮した言葉が「考える体力」であった。高輝度青色発光ダイオードの開発に世界で初めて成功するまで中村氏はひたすら実験を続け、しかも実験装置の大半を自作していた。中村氏は次のように続けた。

 考える体力さえあれば、長く現役で働き続けることが可能です。(中略)技術者や研究者は自分の能力さえ磨けば、より良い職場を選択したり、高い報酬を得たりということが自由にできる。実のところとても厳しいのだけれど、それを乗り切る考える体力があれば、ハッピーに仕事ができます。