記者の仕事を30年以上続けたせいか、目の前の人から驚かされる発言を聞いても、こちらの感情を表に出さないように自分を制御できる。正しく書くなら、制御できると思っていた。だが、文字通り赤面し、しどろもどろになってしまう経験を少し前にした。

 ソフトウエアの世界における重鎮というか長老というか、とにかく大ベテランの方に面談の機会をつくってもらった。ソフトウエアとデザインの関係とか、ソフトウエア開発は「世界制作の方法」の一つではないかとか、格調高い対話になると思われたので資料を読み、質問を用意し、自分なりの考えをまとめた上で指定された場所に赴いた。開口一番、その方はこう言った。

 「谷島さん、BABYMETALがお好きなのですね」

 絶句した。下を向き、「ええと、まあ、そうなのですが、そういう話は今日は」とつぶやくように言い、お茶を濁した。ベテランは何事も無かったようにソフトウエアについて語ってくれたが、最初の一撃の影響かどうか、こちらとしては話がうまくできなかった。

いくつかの誤解に対し弁明する

 BABYMETALとはアイドル出身の美少女3人組である。METALと名乗っている通り、ヘヴィメタルの音楽に合わせて3人が歌って踊る。現在57歳の筆者はファンクラブに相当するものに入っており、公演があるたびに申し込み、切符が当たるように念じている。

 念じ続けている時に何かの原稿を書こうとすると彼女たちが頭の中に出てくる。そのため「記者の眼」欄に公開した拙文の中で通算5回も彼女達のことに触れてしまった。ただしBABYMETALと明記したのは9月5日に公開した一文が最初で、それ以前の4本では名前を伏せておいた。

 ソフトウエアの長老にお会いしたのは9月より前だった。名前を一切出さないで来たのに、いきなりグループ名を言われたので動揺した。実はそれ以前に拙文を読んだ人から面と向かってあれこれ言われたことはあったが、グループ名までは言われなかった。例えば次のようなやり取りである。

 「女性アイドルがお好きなのですね、意外でした」

 「違います」

 「でもアイドルですよね」

 「十代の美少女のファンになったのは人生で初めてですが、だからと言って女性アイドル好きと言われるのは心外です」

 「ヘヴィメタルを聴かれるのですね。私も大ファンです」

 「違います。中高生の頃、ディープパープルやレインボウのコンサートに行きましたが、成人してからほとんど聴いておりません」

 「レインボウですか。ひょっとして初来日の武道館とか」

 「はい」

 「私が最も行きたかったコンサートです。メタルファンにとって伝説のライブですね」

 「当時はハードロックと呼んでいたと思いますが…」