「景気がいい年の新卒採用は、売り手市場なのでいい人材を確保しにくい」
「女性管理職が少ないのは、出産して辞める女性社員が多いから」
「労働時間が長い社員ほど、メンタルヘルスが悪化しやすい」

 人事にまつわるこうした「常識」、果たして本当なのだろうか。

 実はこれらは全て、分析で検証できる。東京大学社会科学研究所の大湾秀雄教授が、ワークスアプリケーションズなどと2015年に立ち上げた「人事情報活用研究会」には、10社の人事担当者が参加。毎月1回、各社の人事データと、オープンデータなどを組み合わせ、上記のようなお題の分析に取り組んでいる。大湾教授の指導の下、統計手法に基づいたデータ処理の方法を学び、仮説を検証していく。

「人事情報活用研究会」には日本航空やテンプホールディングスなど10社の人事担当者が参加。前段右から2人目が大湾秀雄教授
「人事情報活用研究会」には日本航空やテンプホールディングスなど10社の人事担当者が参加。前段右から2人目が大湾秀雄教授
[画像のクリックで拡大表示]

 「人事システムには様々なデータが蓄積されているのに、人事部門には文系の社員が多く、統計リテラシーが低いので、十分に活用されてこなかった。もったいないことだ」。大湾教授は、同研究会を立ち上げた経緯をこう説明する。

 ほとんどの人事システムには社員の個人情報や異動履歴、報酬、評価、勤怠といった情報が蓄積されている。入社時の適性検査の結果や研修の受講履歴といった情報も併せて管理する企業も増えている。「人事ビッグデータ」は既に存在しており、これを分析すれば、採用や育成、配置などの改善に役立てられるはずだ。

 「だがそれに取り組む企業は多くない」と大湾教授は指摘する。原因は人事担当者の「分析ベタ」。評価や報酬など機密性の高い情報が含まれるため外部の分析会社などにアウトソースするのもハードルが高い。

 データによる裏付けがないまま、思い込みや「常識」に基づいて人事戦略を立てるとちぐはぐなことが起こる。例えば「景気がいい年の新卒採用は、売り手市場なのでいい人材を確保しにくい」と決めつけていた。ところが実際には採用選考のプロセスや、面接官の質に問題があり、優秀な人材を落としていたのに、その問題に気づかなかったといったケースだ。