「働き方改革」の御旗の下、「残業ゼロ」や「早帰り」といった掛け声は心地よいが、仕事のやり方、進め方、あるいは捉え方や考え方を変えずに、単に就業時間を短くしただけでは、生産性は下がる。だが、仕事量が減らず売上減も許されない中で、社員が残業してもしなかったことにすると、皮肉にも見かけ上の生産性は向上する。「働き方改革の成果だ」と社長も喜ぶ。こんな状況にあるのが今の働き方改革の実態ではないだろうか。

 そもそも生産性とはシンプルに言えば、製品やサービスなどの「付加価値」をヒト・モノ・カネといった「投入資源」で除したものである。「生産性=付加価値÷投入資源」であり、分母を減らすか、分子を増やすかすれば生産性は上がるはずだ。ただ実際には、分母を減らす=投入資源を減らす施策には取り組んでも、分子を増やす=付加価値を上げるための施策は往々にして後手に回っている。

 ではどうすればいいのか。ここにITが絡んでくる。「守りのIT」「攻めのIT」という言い方をするが、生産性に関して言うと、投入資源を減らすためのITが「守りのIT」、付加価値を上げるためのITが「攻めのIT」と言える。ただいずれにせよ、汎用人工知能が登場すれば状況は変わるかもしれないが、現状では仕事にITを活用するために仕事の定量化が必要である。

 守りのITは定量化されている仕事(ルーチン化できる仕事、オペレーショナルワークとも言い換えられる)にITを活用して効率化やコスト削減を実現することと言える。一方、攻めのITの場合、これまで定性的だったことを定量的に捉えなおして効果を上げることが、ITを活用する意義になるだろう。ただ個々人の仕事には、定量化できる/できない仕事が入り混じっている。そして定性的と思われている仕事でも、分解すると定量化できる部分もある。それらを明らかにするためにはまず仕事の「見える化」が必要であり、これが働き方改革の第一歩となる。

日本人は定量化が得意なはず

 興味深い調査がある。OECD(経済協力開発機構)が2013年に公表した国際成人力調査(PIACC、ピアック)という国際比較調査では、24カ国・地域の16歳から65歳を対象に、読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力などのスキルを調査・比較している(国立教育政策研究所の関連ページ)。それによると、日本人の数的思考力は1位だが、ITを活用した問題解決能力は12位に後退する。