「あそこまでの劇的な変身を遂げるためには、相当な危機感がなければ無理でしょう」

 ある地銀の関係者と話をしていたときに、やはり北國銀行が話題に上った。石川県金沢市に本店を置く北國銀行が2014年11月に設立した本店ビルには、今もなお他行からの視察団がひっきりなしに訪れる。

 企業を知るに最も早い近道、それは実際にオフィスを見ることだ。オフィスはその企業の思想を最もよく表すからだ。筆者も今年の8月、北國銀行を訪れた。金沢駅西口から徒歩5分のところにその本店ビルはあった。

写真●金沢駅西口にある北國銀行の本店ビル。その先進性に数多くの視察団が訪れる
写真●金沢駅西口にある北國銀行の本店ビル。その先進性に数多くの視察団が訪れる
出所:北國銀行
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 外観からして異様だった(写真)。三菱地所設計が請け負ったというそのデザインは、時に威圧感すら覚えさせる他行のそれとは違う。地元産の杉がふんだんに使われ、ロビーに置かれたベンチは輪島塗、看板には二俣和紙が使われていた。随所に地産地消が意識されながら、開放感が漂う。

 だが、中に一歩足を踏み入れると、もはやそこは異空間だった。

 役員会議室は透明のガラス張りで外から丸見えだった。ビル最上部のフロアを役員が陣取ることもなければ、銀行でよく見かける役員専用エレベーターもない。中央集権の権化とも言える、ある意味、“銀行らしさ”がどこにも見当たらない。

 IT企業の担当が長かった筆者にとって見慣れた光景ではあった。むしろ驚いている自分に驚いてしまった。どこで何を見て芽生えたのか、知らず知らずに銀行とはこうであろうという偏見を持ってしまっていた。

 だが、行員の業務スペースに入ると言葉を失ってしまった。

 行員の机には引き出しがなかった。ゴミ箱もない。普通にあってしかるべきの電話機すらない。そして、何より銀行にあるはずの紙がほとんど見当たらない。

 北國銀行はペーパーレスを実現していた。