異様と言えば異様。だが、“らしい”と言えば“らしい”。

 2014年9月30日。東京・六本木のライブハウス「ニコファーレ」では翌日に経営統合を控えたKADOKAWAとドワンゴが記者を集め、冒頭で10分程度の映像を流した(関連記事:ドワンゴ、経営統合を機に書店来訪の高校生以下に有料会員権を付与)。教会の映像とともに、チャペルの鐘の音が響き、両社の統合を結婚に例えたような立て付け。メンデルスゾーンの結婚行進曲が鳴り響き、祝辞と題して感動的なコメントが展開されるかと思いきや、自虐的にも取れる外部識者の辛辣なインタビューから始まった。

 「本当は誰もいいと思ってないでしょ、KADOKAWAの中でもドワンゴの中でも。本当のことを言ったら。相乗効果とかシナジーなんてないってことにみんな気がついているしさ。これだけ株が上がっている中で、KADOKAWAとドワンゴの株だけはさ、下がりまくりでしょ?正直にいえばこのまま継続していくとは僕は思えない。角川歴彦の思いつきで始まった新しいプロジェクトはだいたい5年以内には収束しているから、5年後にはたぶんこの二つの会社は離婚しているか、もしくは二つそろって沈没しているか」

 歯に衣着せぬコメントを寄せたのは東京大学大学院情報学環特任教授、国際日本文化研究センター研究部教授、漫画原作者、小説家、批評家など多様な顔を持つ大塚英志氏だ。大塚氏の指摘は確かに正しい。今年の5月14日、正式に経営統合を発表したKADOKAWAとドワンゴの株価はこの4カ月間、まるで冴えなかったからだ。発表日直後こそ両社の株価は高騰し、ドワンゴの株価は13日の終値の2566円から15日には2972円と16%上昇。KADOKAWAもまた3150円から3470円と10%上昇したが、その後の両社の株価はずるずると下落し続けた(図1)。

図1●統合前のドワンゴの株価推移(左)とKADOKAWAの株価推移(右)
図1●統合前のドワンゴの株価推移(左)とKADOKAWAの株価推移(右)
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 「相乗効果が見えない」と投資家がいぶかしがるのも仕方がない。それだけ両社の経営統合は異質だ。

 KADOKAWAの設立は1945年までさかのぼる。戦後生まれの新興出版社として生まれた角川書店は、岩波文庫や新潮文庫に対抗して「角川文庫」を開始。古典や近代日本文学などの文芸路線を取っていたが、1970年代には大衆路線へと舵を切る。同じ頃には映画製作にも進出し、『人間の証明』や『セーラー服と機関銃』といった名作を次々と世に生み出した。1980年代以降には『ザテレビジョン』『TOKYO WALKER』を相次いで発刊した。

 対してドワンゴの設立は1997年。当初はマイクロソフトからの受託でドリームキャスト用Windows CEの技術サポート業務を主事業としていたが、コンテンツ配信技術や携帯電話向け着メロ販売で事業を拡大。その後、2006年12月に動画の上に利用者が投稿するコメントが流れる独自の表現方法を実現した「ニコニコ動画」を子会社のニワンゴが開始した。後にライブ配信である「ニコニコ生放送」も2007年12月に加え、これらのプラットフォームを舞台に次々と新しいコンテンツ文化を生み出した。