業種を問わず、データサイエンティストを増員しようとする企業が続々と現れている。ブリヂストンとSOMPOホールディングスは、そうした積極的な企業の代表例だ。と言っても、両社のアプローチは正反対と言ってよいほど対照的。両社の事例を分析することは多くの企業の参考になるだろう。

 ブリヂストンは社内人材にデータ分析の教育を施す。同社はデータ分析ソフトの販売を手掛けるSAS Institute Japanと共に独自の研修プログラムを開発。2018年末までに100人の従業員を受講させる。既に2017年5月から6月にかけて第1回を開催し、23人が受講した。

 ITベンダーの教育プログラムを受講させる企業は珍しくないが、ブリヂストンの場合はかなり実践的だ。研修内容は同社向けにカスタマイズされたもの。例えば、タイヤの生産設備から得られる実データを基に、データの出現パターンを発見する、といった演習を設ける。このほか、回帰分析、決定木、ニューラルネットワークなど分析知識の座学もある。講習自体は合計で7日間だが、宿題があるので受講期間は2カ月間に及ぶ。

 ブリヂストンはこの講習で、データサイエンティスト協会が定めた4段階のスキルレベルのうち、上から3段階目の「Associate Data Scientist」を育成することを狙う。これはデータサイエンティストとして独り立ちできている段階で、SAS製のデータ分析ソフトなどを使って大量データを分析し、問題を解決できるレベルである。

 なぜブリヂストンは、手間を掛けて独自の研修プログラムを作り、社内人材を育成するのか。案件ごとに外部の人材に分析を任せることもできるし、中途採用も選択肢としてはあるはずだ。

 同社のCDO(最高デジタル責任者)を務める三枝幸夫執行役員はこう言う。「もちろん、高度な分析を外部企業に依頼することはあるだろうし、中途採用も考えている。ただし、最も力を入れるのは社内人材の育成。当社の現場をよく知る者でなければ、適切なデータ分析ができないからだ」。

写真●ブリヂストンのCDO(最高デジタル責任者)を務める三枝幸夫執行役員
写真●ブリヂストンのCDO(最高デジタル責任者)を務める三枝幸夫執行役員
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意味のない分析結果に

 三枝執行役員がそう思うようになったのは、ある苦い経験がある。ある自動車部品の新製品を開発したときのことだ。当初は歩留まりが悪く(不良品率が高く)、量産体制に移ることができなかった。そこで、決定木分析というデータ分析の手法を用いて、生産機械から得られるデータなどから品質を最も左右する項目を特定しようとした。