Apple Payは日本で普及するのか――。米アップルが「iPhone 6」などと共にApple Payを発表して以来、このテーマについて考え続けている。

 実のところ、このテーマは考えるのが楽しい。頭の中でアレコレ仮説と検証を繰り返すほど、日本のクレジットカード決済やFeliCa、おサイフケータイといった、日本がこの分野で築いてきた歴史を知り、その厚みを実感させられる。

 結論から言えば、私はApple Payについて「アップルが、米国とは異なるよほどの奇策を打たない限り、日本では普及しない」と考えている。日本特有ともいえる二つの「壁」があるためだ。

加盟店手数料、日米で大きな差

 一つは、日本と米国ではクレジットカードのビジネスモデルが全く異なることだ。

 それが端的に表れているのが、(利用者でなく)店舗がカード会社などに支払う加盟店手数料の割合である。一般に米国では売上高の2~3%ほどとされるが、これが日本では3~5%、業種や店舗の規模によっては10%を超える。

 米国と日本で加盟店手数料にここまで差があるのは、カードビジネスの収入源の違いにある。米国を含めた世界のカードビジネスは、リボ払いなどの複数回払いで利用者から徴収する金利が主な収入源である。その分、加盟店手数料は低く抑えられる。

 だが日本では、大半の利用者が支払い方法に「1回払い」を選ぶ。このため、金利収入はほとんど得られない。さらに、カード会員獲得競争が激しい日本では、カード発行会社が1%前後のポイントサービスを付加することが多い。このため、加盟店手数料が高止まりしている注1)

 注1)日本と米国でカード事業のモデルが大きく違う理由の一つに、カード事業をめぐる大蔵省(当時)と通産省(当時)の縄張り争いがあったとも言われている。
 通産省は、所管する信販会社のカード事業を保護するため、銀行のカード事業参入に反発。銀行業以外の事業を禁ずる銀行法の縛りもあり、銀行本体は長らくカード事業に参入できなかった。このため銀行は、子会社を作って周辺事業としてカード発行を始めた。だが、リボ払いに必要な割賦販売の登録を、1992年まで通産省は銀行系カード会社に認めなかった。
 米国では、銀行本体が直接カードを発行するのが一般的だ。このため、銀行が得意とする金利収入を主とする事業モデルを作った。一方、日本では銀行系カード会社はリボ払いを使えず、加盟店手数料の収入を主とするモデルを組まざるを得なかった。

 売上高の5%も手数料に取られては、薄利多売を旨とする量販店や飲食店はたまらない。このため、飲食店で「カードお断り」の店舗がいまだに多いほか、家電量販店では現金払いとカード払いでポイントに差を設けるなど、あの手この手で加盟店手数料の負担を回避する傾向にある。