「コスト削減を卒業し、世界を相手にイノベーションを起こそう」。製造や流通、金融といった業種を問はず、日本企業がITを使ったイノベーション創出に取り組み始めた。だが「ITでイノベーションを」と聞いて、奮い立つ気持ちに少し気恥ずかしさが交じるのは筆者だけか。

写真1●Uberの利用画面
写真1●Uberの利用画面
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 イノベーション狂想曲は、「ディスラプター(破壊者)」と呼ばれる米国スタートアップの強打で幕を開けた。代表格と言われるのが、米ウーバー(Uber)や米エアビーアンドビー(AirBnB)だ。2010年に創業したウーバーは、スマホを使った配車サービスでタクシー業界をディスラプト(破壊)して見せた(写真1)。

 エアビーアンドビーはネットを使った宿泊施設の仲介サービスで、ホテル業界を震撼させている。あるレポートによれば、この夏、世界で1700万近くの人々がエアビーアンドビーを利用したという。同社の創業は、2008年にさかのぼる。スタートアップの季節を駆け抜け、老舗や後追いに負けないサービスを確立したウーバーとエアビーアンドビー。イノベーションとは単なる思いつきを越え、時代を変えたという証にほかならない。そう簡単にイノベーションなど起こせないと、ディスラプターの眩しさに“気恥ずかしさ”を覚える。

ディスラプターは一から考える

 ディスラプターの波動は今、金融業界を大きく揺さぶる。金融(Fin)とIT(Tech)を融合した造語「FinTech」の旗の下、新たな“金融商品”が次々と投入される。スクエアやレンディングクラブなど、主役はやはりスタートアップだ。“Silicon Valley is coming(シリコンバレーがやってくる)”。JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEOは、金融業界のディスラプターを名指しし、既存プレイヤー(traditional banking)を脅かす存在と認めた。

 スマートフォンやソーシャルメディア、人工知能やIoT(Internet of Things)---最新ITの源泉はシリコンバレーや隣接するサンフランシスコ周辺だ。こうしたITを使いこなし、スタートアップは業界慣習や既存のビジネスモデルに捉われないサービスを作り出す。FinTechやEdTechなど「xxTech」の台頭は、あらゆる業界で起こり得る。

 スタートアップのサービスで注目すべきは、利用者(消費者)視点で発想し、しかも利便性を継続的に突き詰める仕組みを作っていることだ。