印籠を見せた途端、悪代官も無法者も平伏する。そういう印籠をシステム開発などのプロジェクトに関わる人は持つ必要がある。

 途中で理不尽な要求を出してくる悪代官のような役員。賛成と言っておきながら全く協力しない無法者のような現場の部長。印籠があれば、彼らに要求を撤回させ、協力させることができる。

 ここまで書いたものの、2017年にITproを読んでいる方々は上述の光景を理解できるのだろうかと少し気になった。だが、「プロジェクトマネジャーの身を護る印籠」という表現をした人がいるので踏襲する。

チャーターが印籠になる

 印籠とは「チャーター」を指す。印籠に例えたのは、神庭PM研究所の神庭弘年所長である。チャーターとは、何らかの活動あるいは組織の狙い、活動範囲、参加者の役割と責任などを記載した文書を指す。プロジェクトチャーター、チームチャーターなどがある。

 印籠になるのは「承認されたチャーター」である。承認するのはプロジェクトにお金を出すオーナーないしスポンサーだ。「チャーターはA4版の紙2、3枚程度でよいが必ずプロジェクトのオーナーに見せ、内容を『確認した』証として判子を押してもらう」(神庭氏)。

 プロジェクトマネジメントのベテランである神庭氏はチャーターが印籠であるゆえんを次のように話す。

 「承認されたチャーターはプロジェクトの御旗であり、進める過程で何らかの混乱が生じた場合、プロジェクトに関わる人々はチャーターに戻って、目的を再確認し、対策を考えることができる」

 チャーターにはプロジェクトマネジャーの名前と権限も書く。それをオーナーが承認してプロジェクトが始まり、プロジェクトマネジャーは権限を行使できる。

 もっとも権限を行使するには、プロジェクトマネジャー自身にも権威が必要である。印籠を持ちつつ、権威は自分で獲得する必要がある。神庭氏は次のように説く。「プロジェクトマネジャーはチームの外に出て関連する諸部門に行き、『プロジェクトを成功させるためにあなたの協力が必要です』と説得して回らなければならない。一人ひとりの所に踏み込んで説得していく。その積み重ねが権威になる」。

 チャーターにはプロジェクトの前提条件も書く。前提が何らかの事情によって崩れたならプロジェクトを見直す。「何が何でもやれ」と言ってくる人にチャーターを見せ、「前提が変わった以上、何らかの対応策無しに続行はできない」と言い返せる。