“こんなシリーズを書いておいて何ですが、僕は日本のIT産業に明るい見通しを持てていません”――。

 「萌えるSE残酷物語」がコンセプトのライトノベル『なれる!SE』(アスキー・メディアワークス発行)が2017年8月、16巻目にしてシリーズ本編完結を迎えた。ITproでもたびたび採り上げており、ご存じの方も多いだろう。

 『なれる!SE』は新人エンジニアの桜坂工兵が個性豊かな上司や顧客に囲まれて成長する物語だ。16巻で工兵は引き続きエンジニアの道を進むか、経営に近い道を歩むか、判断を迫られる。2年目SEの工兵がどのような決断を下したかは是非本編を読んで確かめてほしい。

 最初に紹介した文章は、16巻の筆者あとがき冒頭から引用したものだ。元SEである筆者の夏海公司氏はあとがきで「新しいものをつくる」「面倒なことを便利にする」ことができるエンジニアへのあこがれを明かす一方で、日本のSEを巡る状況については希望を持てずにいるとした。

 16巻に登場する新興企業の外国人社長は筆者の気持ちを代弁するかのように、日本のIT業界、特に受託SI(システムインテグレーション)の業界を辛辣に批判する。

 “少なくとも国内SIerの経営層はエンジニアリングに価値を認めていない。手順書さえあれば誰でもできる単純作業としかとらえていないんだ”

 “だからすぐワークを外に出したがる。あるいは安価な非正規に仕事を引き継ごうとする。コアな正社員には一切技術を求めない”

 “結果生まれたのがプログラミングもできないSEと、創造性の欠片もないプログラマー達だ”

日本のSIerは技術軽視か

 確かに技術軽視と言われても仕方ない面が日本のIT業界にはある。

 経済産業省が2016年6月に公開した国際比較調査「IT人材に関する各国比較調査 結果報告書」によれば、IT人材のうち情報工学・情報科学出身者の割合は、インドが72.0%、中国が61.6%、米国が43.8%だったのに対し、日本は23.0%にとどまる。

回答者の専攻分野
回答者の専攻分野
(出所:経済産業省「IT人材に関する各国比較調査 結果報告書」)
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 そもそも日本の専門教育自体が、実践的な技術から乖離しているとの意見もある。同省が2017年8月に公開した情報系教育に対する企業向け調査「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」では、「新卒で採った大学の情報系の学生で、入社時にプログラミング能力を身に着けている学生の割合は3割以下」という衝撃的なコメントが載っている。

 では企業が大学などに代わって自らIT人材を育成できているかと言えば、そうとも言えない。