2016年4月の電力小売り全面自由化まで、いよいよ7カ月を切った。この5月に東京電力との間で優先的な提携交渉を開始したソフトバンクのように、電力システム改革によって生まれる新たなビジネスチャンスをつかもうと通信業界の動きも慌ただしくなってきた。

 電力システム改革がもたらす通信業界のビジネスチャンスについては、「日経コミュニケーション」9月号の特集記事としてまとめたので、ぜひご覧いただくとして、ここでは通信自由化と電力自由化という二つの業界の相似と相違について考えてみたい。

 一連の電力自由化の動きについて、30年前の通信自由化を例に挙げる関係者は多い。面白いことに、かつての通信自由化を経験した通信業界の人々が、こぞって電力システム改革がもたらす新市場へなだれ込んでいる事実もある。「電力業界の人からは、かつての通信自由化の経験・ノウハウをぜひ教えてほしいといわれる」と、ある通信関連関係者は語る。

 確かに電力と通信は同じネットワーク型のインフラ産業であり、同様に規模の経済が働く産業構造にある。いわゆる自然独占へと近づくのが常であり、独占に伴う非効率性がどうしてもつきまとう。そこに市場メカニズムを導入し、競争によって料金を低廉化させていくという政策的視点は、通信自由化も電力自由化も同じだ。

技術革新が市場拡大をけん引した通信自由化

 まず市場メカニズムの導入で一足先に改革が進んだ通信分野の自由化を振り返りたい。ちょうど30年前の1985年4月、いわゆる電気通信改革三法が施行され、市内、市外を含めて通信事業への全面的な新規参入が認められた。100年以上続いてきた通信事業の独占体制に終止符が打たれた形だ。

 それまでの国内の通信市場は、国内は電電公社(現NTT)、国際はKDD(現KDDI)が独占的にサービスを提供していた。自由化当時(1985年)の両社の売上高の合計は5兆3570億円。それが2013年度には主要通信事業者の売上高の合計は22兆4870億円と約4倍にも拡大している。

 競争の導入がこれだけの通信市場拡大の一因となったことは確かだ。ただ、通信の場合、制度改革以上に技術革新のスピードが激しいことが、市場成長のより大きな要因だったように見える。