新型スマートフォン「iPhone 6」や腕時計型ウエアラブル端末「Apple Watch」など、世界中の耳目を一手に集めた米アップルの発表会が現地時間9月9日に終わった。事前情報が飛び交っていたため、特にサプライズは無く、おおよそ想定通りの内容だった。もはや、アップルに対して情報統制も含め、故スティーブ・ジョブズ氏が率いていたころのようなわくわく感を求めるのには無理があるようだ。

 だが、ジョブズ氏からバトンを受け取ったティム・クックCEO(最高経営責任者)が率いるアップルは「驚き」こそ失えど、逆に「怖さ」を帯びつつある。象徴的なサービスが端末と同時に発表された決済サービス「Apple Pay(アップルペイ)」だ。iPhone 6やApple Watchなどの新端末と比べれば地味だが、Apple Payが決済市場に与える破壊力は想像を絶する。NFCチップを搭載したiPhone 6やApple Watchを店頭端末にかざすだけで決済ができる。

 アップルがモバイル決済への検討を始めたのは2011年と言われている。それから幾度となく、モバイル決済進出の噂は出ては消えを繰り返したが、約3年を経てようやく世に出てきた。それだけにApple Payは使用時に指紋認証機能の「Touch ID」を組み合わせたり、クレジットカード情報が店舗側に伝わらないような仕様になっていたりと、セキュリティに対しても十分に配慮されている。

 Apple Payがマーケットに与えるインパクトは計り知れない。この数年、米スクエアや米ペイパルなど、店頭決済市場への新規参入が相次ぎ、熱を帯びてきた。だが、アップルがiPhoneで培ってきた覇権を持って決済市場に流れ込んでくることを考えると、業界絵図が様変わりする可能性が高い。

 決済基盤で覇権を握ることは、今後のアップルの成長を考えれば、極めて現実的な選択肢だ。そこにはジョブズ氏が見せたようなアッと驚くイノベーションがあるかと言われれば、それはない。だが、極めて精緻に設計された決済システムを作り上げ、当たり前のように決済市場に進出してくるアップルには以前にはない一種の怖さがある。

 クックCEOが率いるアップルは、確実にジョブズ・アップルとは異なる姿を描く。こう予言していた一人の記者がいる。