今、日本の大手ネット企業は、大変な危機感を共有している。米国のネット企業と戦うすべが無いということだ。「えっ、それって前から言われていることでしょ」と思う読者も多いだろうが、実は想定以上の現実に直面しているのだ。ITを活用して新ビジネスや新市場を立ち上げる際の“米国流の絶対的セオリー”が、当の米国企業によって覆されてしまったのだ。

 「これからはデジタルビジネスの時代だ。日本企業もIT活用により新規ビジネスを創出したり、既存ビジネスのイノベーションを図ったりしなければならない」とよく言われる。何を隠そう、私もそう主張し続けている。そしてビジネスの創出・変革の際、一番大事なのはITではなく、それにより新たなビジネスモデルをどのように創り上げるかという点だ。

 ビジネスモデルは、分かったようで分からない言葉の最たるものだが、要は儲ける仕組みのこと。平たく言えば、どこでどのように儲けるかだ。例えば、製品を販売して収益を上げていた製造業が、製品を赤字覚悟で値引きして販売後の保守サービスなどで稼ぐようにした場合、ビジネスモデルを変革したという。モノ売りからサービス主体のモデルに転換したわけだ。

 トラディショナルな企業かベンチャーかを問わず、特定の企業が新たなビジネスモデルで勝負を挑むと、時には既存の市場や競争条件を覆す大きなゲームチェンジを引き起こす。その最大の事例は言うまでもなく、iPhoneを核にしたアップルのビジネスモデルで、かつてソニーが創り上げたウォークマン市場など、様々な市場を粉々に打ち砕いた。

 「モノからコトへ」という最近の消費トレンドもあり、多くの日本企業がITを活用してコト、つまりサービスで儲ける仕組みを創ることに本気になり始めた。デジタルビジネスとはそうした取り組みを指す言葉だ。そして、日本でその先頭を走るのが大手ネット企業である。だが大手ネット企業は、この絶対的セオリーが成り立たなくなってきたことに強い危機感を感じているのだ。