「アジャイルはプログラマ向けの方法論にすぎない」「大規模プロジェクトは結局ウォーターフォールでしょう」――。エンタープライズ分野のITエンジニアの中には、いまだに開発方法論の「アジャイル」に対してネガティブな印象を持つ人が多い。かくいう記者も、どちらかと言えばそうだった。しかし「アジャイル嫌い」は、もうやめたほうがよさそうだ。

 こう感じたのは、日経SYSTEMSの2015年9月号の特集1でアジャイルを取り上げたときである。アジャイルは、少しずつ作ってリリースすることで、要求リスクや技術リスクを軽減する開発方法論。そもそもこのアジャイルに対して否定的になるのは、大きく二つの理由があったからだ。

 一つは、アジャイルではユーザーが主導して開発を進める必要があること。日本ではユーザーが一括して開発を委託するケースが多く、開発者の大半はベンダーに属している。そのためユーザーとの距離が遠く、アジャイルを適用しにくい環境だった。もう一つは、日本では契約の主流が「請負契約」であること。アジャイルではスコープ(開発範囲)が変動する。請負契約では事前にスコープを合意するので、ベンダー側のリスクが極めて大きくなる問題があった。

 このほか、アジャイルではプログラマが楽しく仕事をするのを目指す点も、エンタープライズ分野のITエンジニアからは“自分本位”と冷めて見られたふしがある。記者がXP(eXtreme Programming)の提唱者であるケント・ベック氏に取材した際、ファンだという読売ジャイアンツの帽子をかぶって登場したのを見て、この茶目っ気がアジャイルの本質だと感じてしまった。