マイナンバー制度の施行まで約1カ月後に迫った。10月中旬ごろから住民票がある全ての世帯に、簡易書留で通知カードが届く。もし受け取った人が通知カードの中身を理解しないまま捨ててしまったり紛失したりすると、制度はスタートからつまずく。こうした混乱を事前に想定した「ワーストシナリオ」を作り、どう収拾するか検討する必要がある。

図1●2015年10月中旬から簡易書留で届く通知カードと個人番号交付申請書(出所:総務省)
図1●2015年10月中旬から簡易書留で届く通知カードと個人番号交付申請書(出所:総務省)
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 通知カードが届くと、ほとんどの人は何らかのアクションが求められる(図1)。自分と扶養家族のマイナンバーを勤め先に伝えたりして、税や社会保険の書類にマイナンバーを記載しなければならない。企業も原則として受け取ったマイナンバーが正しいものか住所や氏名、生年月日のほか写真付きの身分証とともに本人確認を行わなければならない。にもかかわらず、現時点でもマイナンバー制度への理解は広がっていない。

 マイナンバーは、税や社会保険の手続きに必要だ。しかし、なじみの薄い税や社会保険のための準備をいきなり迫られればトラブルも招きやすい。既にインターネットでは、プライバシーへの不安や複雑な手続きへの感情的な反発も出ている。明らかにマイナンバー制度への誤解や曲解を基にした書き込みも目立つ。

 マイナンバー制度は、設計段階からプライバシー保護や情報セキュリティを確保する何重もの安全策が盛り込まれている。マイナンバーの利用目的は法律で限られる。個人が自らの意思で番号を提供して、受け取った側は厳格な本人確認をしなければならない。それによって、なりすましや不正利用などを防ぐ仕組みだ。

 しかし目前で混乱が起きれば、細かな制度の仕組みや理屈よりも、感情的な反発が増幅しやすくなる。とりわけマイナンバー制度との接点となる自治体の窓口や、企業では混乱が起きやすいだろう。日本に住むほとんどの人が対象である以上、これまでの制度変更とは影響が及ぶ範囲が桁違いに広い。ひとたび“絵になる”騒動がネットやテレビの映像を通じて拡散してしまうと、その矛先は政府や自治体だけでなく、企業にも及ぶ恐れがある。