仕事をする上で最も困る事は何か。仕事と言っても色々ある。まず自分の仕事について考えよう。自分が困った例ではなく他人を困らせた例、早い話が叱られた例を思い出してみる。

 「なぜもっと前に言ってこない」。記者の仕事をしていた頃、先輩や上司から雷を落とされた。例えば「白について記事を書くはずでしたが取材が進まないので黒に切り替えます」と言ったときである。あるいは「8月21日が締切の原稿、19日から20日まで出張を入れてしまったので25日に出します」と18日の夜伝えたような場合である。このように報告や相談をしない人あるいは報告や相談をするのが遅い人がいると困る。

 記者の成果物は原稿であり、白のはずが黒になっても締切を少々守れなくても、面白い原稿さえ提出できれば許されてしまう場合がある。だが白を黒にできず灰色になり、25日に出すと言ったにも関わらず提出が28日になり、しかも面白くない原稿であったりしたら当然許されない。原稿を査読する先輩や上司から「締切を過ぎてこんな原稿を出されても手の施しようがない」と罵倒され、28日から29日にかけて寝ないで書き直すはめになる。これは原稿の筋書きをぎりぎりまで決められず、いざ書いてみて取材不足に気付いた例である。

 「もっと前に言って下さい」。それなりの年月を経て記者の原稿を査読する担当になったり編集長を務めたりしたとき、同僚や後輩から苦言を呈された。例えば次のように同僚や後輩に命じたときである。「この原稿、昨日は大丈夫と言ったが今朝熟読したところ駄目と分かった。全文書き直し」「今回の特集は赤で行くはずだったが青に変えてくれ」。

 先輩であり上司の指示だから彼らは従うしかない。「仰せの通りやりますが、こういう指示はもっと早く出していただけますか」などと言う彼らは怖い顔をしている。このように上司や責任者の判断が遅れると仕事を進める上で困る。

 上司であるにも関わらず苦言を呈された例は改めて書いてみると酷い話のようだが、こちらにも言い分がある。多くの場合、次のような状況であった。原稿を締切通りに出す人は少ないから複数の原稿が机の上あるいは電子メールボックスにたまる。査読の並行処理は不可能で順に読んでいくしかない。原稿を出した記者は気が楽になるらしく「これから取材に出たいのですが、今朝出した原稿はどうでしょう」などと言ってくる。