金融とテクノロジーの融合、いわゆるFinTechの業界で、この夏、不可解な事象が起きた。舞台はスマートフォンやタブレットといった汎用端末をクレジットカード決済端末として利用する、いわゆるスマホ決済市場だ。

 日本市場では2012年9月に日本ペイパル(現米ペイパル)が先行して試験サービスを実施し、2012年10月にはスタートアップ企業だったコイニーがサービスを開始させた。2012年12月には楽天が楽天スマートペイを投入し、2013年5月に本家本元の米スクエアが日本に上陸。主要プレーヤーが出そろったことで、スマホ決済市場に熱い視線が注がれ始めた。

 理由は初期導入コストを大幅に下げられることに加え、それまで不透明だった加盟店が支払う手数料を一律で明示したこと。加えて、加盟店への売り上げの振り込み期間を大幅に短縮するなど、とかく従来のクレジットカード決済とは一線を画した透明性と利便性がウリだった。

 だが、市場の立ち上がりから4年が経過した今夏、異変が起きた。

 2016年5月下旬、スマホ決済サービス「楽天スマートペイ」の加盟店に、「決済手数料に関する重要なお知らせ」と題した1通のメールが届いた。そこには、7月1日以降、新規で申し込む加盟店に対して、「JCB」「Diners Club(以下、Diners)」「Discover」の決済手数料を3.74%にすると記されていた。

 従来の手数料は「Visa」「MasterCard」「American Express(以下、AMEX)」も含め、3.24%で一律だった。つまり、ブランドによって0.5%の手数料の差が生まれることになった()。4年にわたって続けてきた分かりやすい一律手数料というビジネスモデルの一角が崩れ去った瞬間だった。

図●楽天が提供するスマホ決済サービス「楽天スマートペイ」は2016年7月1日以降の新規申込者に対し、ブランドによって異なる手数料を取り始めた
図●楽天が提供するスマホ決済サービス「楽天スマートペイ」は2016年7月1日以降の新規申込者に対し、ブランドによって異なる手数料を取り始めた
(出所:楽天)

 これだけだったなら、楽天が経営方針を変更しただけの話で済んでいた。だが、加盟店手数料を値上げしたのは楽天だけではなかった。コイニーもまた、約1カ月後に全く同じブランドの手数料値上げに追随したのだ。