KDDIがIoT(インターネット・オブ・シングズ)ベンチャー、ソラコムの株式の過半を取得して連結子会社化する。しかも約200億円で――。2017年8月2日に明るみになったこのニュースで、記者は買収そのものの事実もさることながら、その買収額に驚かされた。KDDIもソラコムも具体的な買収額は明らかにしていないものの「(買収額は)200億円からそう大きく離れた額ではない」(KDDI)としている。

 一部には、ソラコムが実施した資金調達の規模を考えれば200億円でも驚くほどではない、との声もある。ソラコム設立前からAWS(Amazon Web Services)のエバンジェリストとして活躍していた玉川憲社長の実力を高く評価する声もある。そうはいってもサービス開始から2年足らず、会社設立から数えても3年弱のベンチャー企業のエグジット(投資回収)としては、やはり目を見張る金額といえよう。

ソフトバンクより先にイー・アクセス買収を交渉していたが…

 なぜKDDIはかくも巨額の買収資金を投じる決断をしたのか。その源流をたどっていくと、ある大型買収案件を巡り同社が5年前に味わった苦い経験に行き着く。2012年10月の、ソフトバンクによるイー・アクセスの買収だ。実は当初、KDDIもイー・アクセス買収に名乗りを上げ、同社や同社の筆頭株主だった米ゴールドマン・サックスなどと秘密裏に交渉していた。それを察知したソフトバンクが後から割って入ったのだ。

 「ソフトバンクが具体的な提案を持ってきたのは(買収を発表した2012年10月1日の)1週間くらい前。孫正義社長は1.7GHz帯と(当時発売されたばかりの)iPhone 5のテザリングに懸けるものすごい思いを抱き、“火の玉”を持ってワーっとやって来た」。自ら創業したイー・アクセスを売却する決断をした千本倖生会長は当時、交渉の経緯をそう記者に明かした。

 9月下旬に短期決戦で山場を迎えた買収合戦は、ソフトバンクがイー・アクセスの当時の株価水準(1株あたり1万5000円)に対し3.5倍となる同5万2000円、買収総額1800億円を提示してイー・アクセス争奪戦を制した。KDDIは買収成立直前まで迫りながら、ライバルに横取りを許してしまった。