「企業のIT予算の7割は既存のシステムの保守運用費。これを削って攻めのIT投資の比率を高めるべきだ」。ITベンダーやユーザー企業のIT部門は、十年一日のごとく繰り返し、こう主張してきた。もう耳タコ状態。そして今もなお、そんな主張をしたり、「その通り!」と激しく同意したりする人がいるが、はっきり言って、トレンドの見えない愚か者である。

 本質的な話を書く前に、この「保守運用費を削って、攻めの投資に回せ」というスローガンの空虚さについて言及しておきたい。論点は二つ。まず、保守運用費が7割という、この比率を大きく変えることに成功したユーザー企業を、私は寡聞にして知らない。実際に、ほとんど存在しないのではないか。だから十年一日のごとく、そう主張しているのだ。

 もちろん多くの企業では、外部委託費を引き下げるなどの形で、保守運用費自体は削減されてきた。不況の際に経営から「固定費を一律5%削減」などと命じられて、保守運用を委託しているITベンダーに「申し訳ないが、5%ほど値引きしてくれ」と懇願する。契約更改時ならば、形だけのコンペをやって委託先のITベンダーの値下げを促す。そんな具合だ。

 当然、こうした施策は外部のITベンダーに泣いてもらっているだけだから、本質的な解決策にはならない。そもそも、削った費用を攻めの投資に振り替えられるかと言えば、そんなことはあり得ない。浮いたお金は経営に召し上げられて、IT予算全体が縮むだけである。経営から削減命令が出るのは企業が苦境である時が多いから、新規開発も大幅削減か凍結と相成る。

 そんなわけで、攻めのIT投資のIT予算に占める比率は一向に高まらない。それどこか非常時には新規開発案件は全て凍結され、IT予算はほぼ全て保守運用費なんて時もある。いずれにせよ「保守運用費を削って、攻めの投資に回せ」というITベンダーとIT部門の主張は、ただ言っているだけで、いつまで経っても実現されることのない空虚なスローガンだったわけだ。