紛争前の2014年6月29日から7月4日まで、筆者はイスラエルを訪れていた。イスラエルは「Startup Nation」と呼ばれるほど起業が盛んで、そこから生まれる先進的で独創的な技術を持つベンチャー企業は大手IT企業の協業相手やM&A(合併・買収)の対象として注目されている。

 実際、米IBM、米アップル、米インテル、米グーグル、米フェイスブック、米マイクロソフトなど多くの企業がここ数年、続々とイスラエルのベンチャー企業を買収している()。

表●大手IT企業が買収したイスラエルのベンチャー企業の一部(いずれもイスラエル経済省が公表しているもの)
買収発表時期買収した企業買収されたイスラエル企業分野買収金額(米ドル)
2011年3月米フェイスブックSnaptuモバイルアプリ開発7000万
2011年8月米セールスフォース・ドットコムNavajo Systemsクラウドセキュリティ3000万
2011年9月米インテルTelmapクラウドセキュリティ3000万
2011年9月米ツイッターJulpanソーシャル情報分析4500万
2011年11月米マイクロソフトVideoSurf動画検索技術1億
2011年12月米アップルAnobit Technologiesフラッシュメモリー用コントローラ3億9000万
2012年1月米インテルInVision Biometrics3Dセンサー非公表
2012年1月米IBMWorklightモバイルアプリ開発プラットフォーム9500万
2012年3月米シスコシステムズNDS Groupビデオ配信/コンテンツセキュリティ50億
2012年5月米ヴイエムウェアWanovaデスクトップ管理8000万
2012年5月米EMCXtremIOフラッシュメモリーストレージ4億5000万
2012年6月米フェイスブックFace.com顔認識技術6000万
2012年7月米インテルIDesia Biometrics心音認識技術非公表
2012年12月米EMCMoreVRPデータベース管理・監視2500万
2013年1月米シスコシステムズIntucell携帯電話事業者向けネットワーク最適化4億7500万
2013年3月米マイクロソフトPandoP2Pアプリ1億1000万
2013年6月米グーグルWazeソーシャル地図アプリ9億6600万
2013年6月米EMCScaleIO仮想ストレージソフト2億5000万
2013年7月韓国サムスン電子Boxeeストリーミングソフト3000万
2013年7月米インテルOmek Interactiveジェスチャー認識技術4000万
2013年7月米IBMCSL International仮想化管理技術2000万
2013年8月米IBMTrusteerサイバーセキュリティサービス6億5000万
2013年10月米フェイスブックOnavoモバイルデータ圧縮アプリ1億5000万
2013年10月米アップルCueパーソナルアシスタントアプリ5000万
2013年11月米アップルPrimeSense3Dセンサー3億6000万
2014年2月楽天Viber Mediaモバイル通話・メッセージアプリ9億
2014年2月米グーグルSlickLogin高周波音ログイン認証非公表
2014年3月米ヒューレット・パッカードShunra Softwareネットワーク仮想化2500万
2014年5月米インテュイットCheck会計アプリ3億6000万
*イスラエルから他国に本社を移したが、引き続き主要開発拠点をイスラエルに置く企業を含む

 こうしたスタートアップを生み出す土壌と、さらに米国企業を中心に多くのIT企業が研究・開発拠点を設けているところから、同国は“中東のシリコンバレー”とも言われる。

 古くは米インテルなど半導体メーカーが進出。最近では米アップルや米グーグルなども買収した企業を足掛かりにイスラエルに研究・開発拠点を置き、現地の技術や人材を吸収する場として活用している。イスラエルのスタートアップを生み出すエコシステムの一角に大手IT企業が加わっているのだ。

 イスラエル訪問の主な目的は、こうしたスタートアップを生み出す同国のエコシステムを取材すること。現地ではベンチャーキャピタルや大学、政府関係者、多くのベンチャー企業から話を聞いた。

 そうした取材の直後である。筆者が帰国した翌週の7月8日未明、イスラエル国防軍はイスラム原理主義組織ハマスが支配するパレスチナ自治区ガザへの本格的な攻撃を開始した。