「未完事例の発表がやけに多いな」。2016年6月、CADやIoT(インターネット・オブ・シングズ)関連ソフトを手掛ける米PTCはIoTイベント「LiveWorx 2016」を開催した。記者はそこに参加し、ユーザー企業の事例講演を複数、聴講。そうするうちにこう気づいた(写真1)。

写真1●米PTCが2016年6月、ボストンで主催したIoT関連イベント「LiveWorx 2016」の基調講演
写真1●米PTCが2016年6月、ボストンで主催したIoT関連イベント「LiveWorx 2016」の基調講演
PTCのジム・へプルマン社長兼CEO(スクリーン右)とともに、米キャタピラーで技術を統括するテリー・ルイス ディレクター(同左)が登壇した
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 未完事例とは、「これからこんなシステムを導入していく」「こんなデータ分析を進めていく」といった、ユーザー企業で計画中、あるいは進行中の取り組み事例を指す。国内のイベントで登壇するユーザー企業の担当者の話は、プロジェクトが完遂したものが中心。それと対照的なのが強く印象に残った。

 その最たる例が基調講演で発表された、重機メーカー、米キャタピラーの事例だ。今回のイベントにおける主要テーマの一つが「AR(拡張現実)やVR(仮想現実)をIoTと組み合わせて企業が活用していく」こと。PTCのジム・へプルマン社長兼CEO(最高経営責任者)は基調講演でこれを提案し、「製造業が採用していくことで、現場担当者や顧客に対して新しい現実感を提供できる。付加価値も向上できる」と、強調した。

 キャタピラーの取り組みは、具体例として、その直後に紹介された。キャタピラーは、レンタル発電機に組み込んだセンサーのデータを見ることができる、AR(拡張現実)アプリを開発中だ。基調講演では、そのベータ版のデモを、聴衆を前に披露した(写真2)。

写真2●キャタピラーが公開した、レンタル発電機の状態を把握できる、iPad用AR(仮想現実)アプリのベータ版
写真2●キャタピラーが公開した、レンタル発電機の状態を把握できる、iPad用AR(仮想現実)アプリのベータ版
発電機に貼り付けた専用マーカーをアプリで映すと、iPadの画面上に機器内のセンサーから取得した電圧や燃料の残量データがARを使って自動表示された
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 デモでは、ARアプリを立ち上げてから、iPadのカメラ機能を介して機器内部に貼り付けてある専用のマーカーを映した。すると、iPadの画面上に、発電機の電圧や燃料の残量を示すアイコンが出現。アイコンには、発電機に組み込んだセンサーからのデータを表示させるようにすることで、アプリ利用者は、機器の状態をリアルタイムに把握できる。

 さらにこのアプリには、「発電機の動かし方」などをビジュアルに解説する機能もある。アプリ上の再生ボタンをタップすると、実写映像の上に、CGアニメーションが重ね合わされて、「黒いハンドルを右方向に回してから、赤いつまみをひねる」といった起動の手順が示される。

 キャタピラーはこのアプリを、PTCが提供しているARやVRのアプリ向けソフトウエアコンポーネント「Vuforia」を使って開発した。米キャタピラーの技術部門を統括している責任者、テリー・ルイス ディレクターが壇上に上がり、「レンタル発電機の利用体験を簡単にできる」と、未完ともいえるベータ版のアプリに、期待を寄せていた。