皮膚の黒ずんだ箇所の写真をアップロードすると、コンピュータが写真を解析し、「その病変が皮膚がんである確率は〇〇%です」とアドバイスしてくれる――。そんな診断サポートシステムのプロトタイプを開発したのが、画像認識などのAI技術にはまったくの素人だった筑波総合クリニック/筑波大学の皮膚科専門医、石井亜希子氏だ。
夫であり、ITに詳しい整形外科専門医の石井壮郎氏の助言を受け、皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)を判別する画像認識モデルを試作した。ディープラーニング(多層ニューラルネットワークによる機械学習)による画像認識モデルの生成サービス「Labellio」上で作ったものだ。
この診断支援システムは、メラノーマと良性のほくろ(色素細胞母斑)を判別し、自信度と共に回答する。テストデータで測定した精度(自信度50%以上で正答した割合)は99%以上という。
初期のメラノーマとほくろを見分けるのは、皮膚科専門医でも苦慮することがある。両者を正確に診断するには何年もの訓練が必要という。「試作したシステムは、医療過疎地などの皮膚科専門医がいない状況で、診断をサポートする用途に使えると考えている」(石井亜希子氏)。
ディープラーニングが、機械学習に詳しくない人にも使いこなせるITツールとして成熟した結果、医療などの専門分野で大きな成果を挙げる素地が整いつつある。石井夫妻が診断支援システムを開発した経緯を紹介しながら、ディープラーニングの威力と、社会実装に向けた課題について考えてみたい。