日本市場で普及し始めたIoT(Internet of Things)のサービスや製品の現状に対し、危機感を訴える声が強まっている。

 「日本では1社で完結したバラバラのIoTやビッグデータのシステムが乱立している。このままでは海外勢に負ける」。NTTの鵜浦博夫社長は日本のIoTが抱える問題点をこう語る。ここでいう「海外勢」の代表が、自社サービスを通じて膨大なユーザーの行動データを単独で収集できている米大手ネット企業、いわゆる「GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)」だ。

 政府や官公庁も「GAFA」への強い警戒感を訴える。2016年に可決・施行された官民データ活用推進基本法を巡る議論では、自民党IT戦略特命委員長の平井卓也衆議院議員らが「ネット空間では米巨大ネット企業がデータを囲い込んでいる。データ活用のイニシアチブを取り戻す必要がある」と新法に込めた狙いを説明した。

 日本が打ち出すGAFAへの対抗策は「オープン戦略」だ。国や自治体が率先して行政データを民間に開放する「オープンデータ」を押し進めながら、企業間でもお互いのデータを持ち寄り流通させる動きを促していく。一部の民間からもオープン戦略を実践する動きも始まった。

 企業間でデータを流通させると、取引ルールや経済条件、他社に開放するデータの線引きなどを取り決める必要がある。関係者の調整にかなりの時間を費やしたり、範囲を狭める力学が働いて効果が弱くなったりと、オープン戦略の難しさも既に露わになっている。

 しかし、お互いのデータを持ち寄ることでデータ分析の集積効果を出そうという狙いには多いに賛同したい。工場や農場など現実世界で収集するセンサー情報や家電などから収集するIoTデータは日本が強みを発揮できる分野である。

 産業向けのIoTを中心に、日本で進むオープン戦略の現状を、課題も交えて紹介したい。

共用すればデータはもっと生きる

 産業向けIoTでオープン戦略を具体的に模索している業界が海運・造船だ。

 日本郵船や商船三井など海運大手はここ数年、エンジンなど機関系のデータや各種航行データを取得し、燃費や航行計画の改善に役立ててきた。現状で、これらのデータは船舶を運航させている海運企業が一手に管理している場合が多い。

 このデータを海運企業が単独で囲い込まず、造船企業、エンジンやボイラーなど搭載機器を製造する船用機器メーカー、船を所有する船主企業など、海運に関わる企業と共用する構想が進んでいる。

 国際船舶の検査や認証を手掛ける機関「日本海事協会」が掲げる「Internet of Ships Open Platform」構想だ。海運企業が燃費改善などのために収集したIoTデータのうち、エンジンやボイラーなど船用機器メーカーが自社製品に関わるデータ提供を受けられれば、製品の改善に役立てられる。またエンジンの出力と航行速度、海流などの運航データは、造船企業が設計方法を改良し、船舶の航行性能を高めることに役立つ。

 日本海事協会は自動車の車検に相当する「船級検査」サービスを提供するほか、子会社のシップデータセンターを通じて、海運向けIoT基盤を運営するサービスを2016年に始動させている。現在は海運企業や船主からデータの取得・蓄積を請け負っているケースが多いが、このサービスを発展させて、船用機器メーカーや造船企業なども交えたデータ流通の基盤に発展させる構想だ。

出所:データシップセンター
出所:データシップセンター
[画像のクリックで拡大表示]