良いシステムを構築し、運用するために最も大切なことは何だろう。利用部門のビジネスに対する理解? 広範な技術知識? それらももちろん大切だろう。でも、もっと大切なことがあるんじゃないか、と筆者は最近思うようになった。それは愛だ。

 読むのを止めようと思ったあなた、もう少しおつきあいいただきたい。論理もへったくれもない、ふざけた内容に映るかもしれない。でも筆者は大まじめだ。

 結局のところ、どれだけビジネスを理解していても、新ビジネスの実現に必要な技術知識を身に付けていても、それだけでは足りない。愛されていなければ、利用部門の関係者はあなたの提案になかなか聞く耳を持ってくれないし、所属チームのメンバーも付いてきてくれないからだ。

 ご存じの通り、今やITが新しいビジネスを創出し、加速させる時代である。スマートフォンやタブレット端末といったスマートデバイスが普及し、技術に詳しくない一般のユーザーに広く受け入れられている。各種デバイスの利用状況やWebのアクセス履歴などを収集して活用する、ビッグデータへの取り組みも盛んになりつつある。これらをうまく組み合わせることで、ITエンジニアがビジネスの刷新に貢献するチャンスが広がっている。

 このせっかくのチャンスを生かすためにも、良いシステムを作りたいという熱い思いを持っているあなたにはぜひ、愛されることに真剣になってほしい。

愛されるITエンジニアに共通する三つの素養

写真1●T-MEDIAホールディングスの松本裕也氏(IT本部 管理ユニット 管理 Leader)
写真1●T-MEDIAホールディングスの松本裕也氏(IT本部 管理ユニット 管理 Leader)
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 では、愛されるITエンジニアになるにはどうすればよいか。「愛されている」と社内外で定評があり、実際に新システムの構築や運用で活躍する10人のITエンジニアを取材した。それぞれに魅力的な個性を持つ方々だったが、三つの素養を共通して身に付けていた。(1)未知に踏み出す、(2)思いに寄り添う、(3)垣根を壊し続ける、である。

 (1)の未知に踏み出すとは、新しいことに先手を打って前向きに取り組む姿勢のこと。ビジネスに貢献するシステムにおいては、目指すゴールがプロジェクトの途中まではっきりしないことが少なくない。最新の技術を利用する必要があるなど、相応にリスクも高い。「ゴールを明確にし、枯れた技術で手堅く作る」という姿勢ではいつまでもシステムを作れない。

 その点、愛されるITエンジニアは違う。先の見えない状況に直面したとき、自ら率先して踏み出す。時には「ドン・キホーテのように無謀だ」などと思われるかもしれない。それでも勇気を持って先陣を切る姿勢を続けることで、「ゴールまでの道筋を切り開いてくれる」と周囲の関係者の尊敬を集めるようになる。

 この素養を象徴する一人は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のグループ会社であるT-MEDIAホールディングスで、同社の基盤を構築・運用する松本裕也さん(IT本部 管理ユニット 管理 Leader、写真1)。松本さんが口癖にしているのが、「いったんやる」だ。