植物工場をはじめ、農業×IT(アグリテック、農業 4.0)を取材する機会が増えてきたこともあり、未読だった書籍を改めて手に取ってみた。『植物は〈知性〉をもっている』(ステファノ・マンクーゾほか著、NHK出版)である。

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 植物は偉大な存在だ。食べ物、空気、エネルギー全てに関して、人間は植物に依存している。地球上に存在する生物の総重量(バイオマス)のうち、多細胞生物の99.7%を植物が占める。人間と全ての動物を合わせても0.3%にすぎない。地球はまさに「緑の惑星」なのである。

 にもかかわらず、我々は植物のことを驚くほど分かっていない。イタリア・フィレンツェ大学農学部教授のマンクーゾ氏らが50年間の様々な研究成果を踏まえて執筆した本書を読むと、こう実感する。

 植物に知性はあるか? こう聞かれると、多くの人は「そうは思わない」と答えるのではないか。脳による(人工知能=AIなら脳を模した)知的活動の基となるのが知性であり、脳を持たない植物に知性があるとは思えない、と考えるのが自然だろう。

 マンクーゾ氏らはこの考え方に異を唱える。私たちは「脳の偏見」によって、植物は知性を持っていないと思い込んでいると主張する。脳の偏見とは「脳がなければ知的ではありえない」という偏見を指す。当然、植物は脳を持たない。

 そうした私たちの態度に科学的な根拠はなく、昔ながらの先入観にとらわれているだけではないか。本書はこうした前提で、植物が持つ驚くべき特性を明らかにしつつ、脳を持たない植物が「知性を持つ存在である」という事実を示していく。

目標達成に向けて、対立する要求を調整しつつ根を伸ばす

 『植物は〈知性〉をもっている』によると、植物は様々な感知能力を備える。人間とよく似た五感すなわち視覚、嗅覚、味覚、聴覚、触覚はもちろん、人間が持たない、少なくとも15の感覚を持つという。湿度や重力、磁場、空気中や地中の化学物質を感知する能力などだ。