画面●米アマゾン・ドット・コムは米英仏独などで既に「Kindle Unlimited」を月額9.99ドル(米国の場合)で提供している
画面●米アマゾン・ドット・コムは米英仏独などで既に「Kindle Unlimited」を月額9.99ドル(米国の場合)で提供している
出所:米アマゾン・ドット・コム
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 米アマゾン・ドット・コム日本法人が、電子書籍が定額で読み放題になる新サービスを開始するとの観測が広がっている。メディア業界専門誌の文化通信が6月27日に報じ、ほかの一部報道機関も後を追った。料金は月額1000円前後で、早ければ8月にも開始する意向だという。

 電子書籍の定額サービスが、今まで日本になかったわけではない。例えばNTTソルマーレは、コミックを対象に月額780円(税抜き)から提供中だ。ヤフーも月額400円(税抜き)でコミックや書籍が読み放題の「Yahoo!ブックストア」を手掛ける。NTTドコモの「dマガジン」のように、最新号約160誌以上の雑誌を対象にしたものもある。

米国では100万タイトルが読み放題

 アマゾン参入のインパクトは、読める書籍数が競合他社に比べてはるかに多い可能性が高いことに尽きる。NTTソルマーレの場合は約2万5000冊(月額1480円のメニューの場合)、月額400円で提供するヤフーもやはり約2万5000冊止まり。アマゾン米本社が本国などで「Kindle Unlimited」の名称で提供する読み放題サービスは、月額9.99ドルで約100万タイトルに及ぶ。英仏独やイタリア、スペインなどの欧州諸国やブラジル、メキシコなど中南米でも、同じような規模で展開している。日本でも、タイトル数の多さを打ち出す可能性は高い。

 膨大なデジタルコンテンツに対して一定金額でアクセスできるサービス形態は「サブスクリプションモデル」と呼ばれ、日本では動画配信や音楽配信が先行して普及している。

 消費者にとってのサブスクリプションモデルの恩恵は、楽しみたくなった瞬間に気分にベストマッチなタイトルを自由に手に入れる権利を手にできることにある。いつでもどこでも湯水のようにコンテンツを“消費”できることから、映画や楽曲をCDなどの形で一人ひとりが所有するメリットが薄れる。この点から、コンテンツ流通の姿を激変させるものとして、注目を浴びている。

 音楽業界ではサブスクリプションモデルの導入が、市場の前年割れに歯止めをかけるのに一役買っている。日本では2015年、生産金額ベースで市場規模はわずか0.1%ながら拡大。サブスクリプションモデルが前年比58%増と急伸し、有料配信のカテゴリで約26%を占めるまでに成長した。新サービスが相次ぎ、消費者の支持を着々と得つつある。音楽業界関係者が寄せる期待も大きい。

 一方、出版市場は長らく低落傾向にある。11年連続で前年比減となり、2015年は金額で前年比5.3%減と過去最大の落ち込み幅を記録した。落ち込みを補おうと、各社は電子書籍の普及に力を注ぐ。2015年の電子書籍市場を単体で見れば1502億円で、前年比31.3%増と確かに好調。ただ紙の市場と電子の市場を足し合わせた規模を前年と比べると、2.8%減。プラスに転じさせるほどのインパクトをまだもたらしていない。

 そんな中で噂に上る、アマゾンの定額読み放題サービス。今の出版市場環境は、2012年から2013年ごろの音楽業界に酷似している。当時音楽業界では、なんとか新しい音楽体験を消費者に提供しようと、サブスクリプションモデルを採用したサービスを各社が恐る恐る投入し始めたところだった。

 当初は曲数が少ないものもあったが、レコード会社の理解が進み、膨大な楽曲数と料金の安さを両立させるなど進化を遂げていく。LINEやサイバーエージェントなどが本腰を入れたことも手伝って一気に広まった。出版業界でも、同様の普及現象が起こってもおかしくない、と私は考えている。