東京を代表するファッション街の一つ、吉祥寺。駅前の商業エリアを抜けた閑静な住宅街の1区画に腕時計ブランド、「Knot」の旗艦店がある。創業からちょうど1年目に当たる2015年3月4日にオープンしたこの店は、Knotの代表取締役を務める遠藤弘満氏が掲げる、「誰もが気軽に手に入るメイドインジャパンの復活」の実現に向けた一里塚たる存在だ(写真1)。

写真1●Knotの遠藤弘満代表取締役
写真1●Knotの遠藤弘満代表取締役
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 Knotのウリは1万円台の日本製腕時計で、文字盤やベルトは自由に組み合わせ可能だ(写真2)。筆者がKnotを訪れたのは平日の昼。大学生らしきカップルが羨ましほど楽しそうに時計を選んでいた。この値段であれば、学生であっても無理なく購入できるだろう。休日には1日で150人以上が押しかけ、月に約800万円を売り上げる。EC(電子商取引)などを含めると、Knotの売上高は月3000万〜3500万円に上る。

写真2●「Knot」の腕時計
写真2●「Knot」の腕時計
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 Knotは2014年5月、初回生産に際してクラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で500万円の資金調達に成功した。当時、生産には取りかかっていたが、完成品そのものはまだ存在しなかった。それでも、商品コンセプトと遠藤氏が目指す「メイドインジャパンの復活」というストーリーに、多くの賛同者が集まった。

 事業資金を得るために、担保や決算書は必ずしも必要ない。大勢の人々を納得させる商品構想や動機があれば、巨額の資金を調達できる時代になりつつある。

 1970年代、安価で高品質な日本の腕時計は世界で勇躍し、時計大国の地位を得た。そのポジションは今も変わらない。しかし大手時計メーカーは生産拠点を海外にシフトさせ、国内の生産工場は苦境に立たされているという。しかも、“メイドインジャパン”はいつの間にか、高額商品化していた。

 Knotは、アパレルや眼鏡業界では当たり前となったSPA(製造小売り)方式を実現し、日本製腕時計の原点である“安価で高品質”を武器に、時計業界に変革を仕掛ける。「いま一度、世界に評価される“メイドインジャパン”を取り戻す」。遠藤氏の目標は明確だ。

 遠藤氏をこうした決意に至らせたもの。それを探るため、時計の針を3年前に巻き戻そう。全ては一つの裏切りから始まった。