米国で2015年春、「Silicon Valley is coming(シリコンバレーがやってくる)」というフレーズが話題になった。これは米国の大手金融機関JPモルガン・チェースが、ジェームズ・ダイモンCEO(最高経営責任者)名義で公開した「株主への手紙」の中にある一節だ。シリコンバレーのスタートアップが、同行のような金融機関の脅威になり始めていることを率直に表現した。

 同行が脅威として挙げる例の一つが、シリコンバレーのスタートアップが提供する個人/中小企業向けの融資サービスだ。シリコンバレーのスタートアップは、独自のビッグデータ分析によって顧客のリスクを算定しているため、既存の金融機関であれば数週間もかかるようなローンの審査を、わずか数分で終わらせているのだという。

 「当行も彼ら(シリコンバレーのスタートアップ)と同等かより良いサービスを提供するために、必死で努力する」。ダイモンCEOはそのように述べている。

 ビッグデータ分析や人工知能に強みを持つシリコンバレー企業が、産業界の既存プレイヤーの地位を脅かす――。この15年ほど、メディア業や広告業が体験してきたのと同じ構造変化が、今、あらゆる産業領域に広がろうとしている。

SNSを審査してショッピングローンを提供

 例えば金融業では、顧客のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上の行動なども“審査”してショッピングローンを提供する米Affirm(アファーム)のようなスタートアップが登場している。米PayPal(ペイパル)の共同創業者であるマックス・レヴチン氏が起業した同社は2015年5月、2億7500万ドルの資金調達をしたことが話題になった。

 運輸・交通業ではUber(ウーバー)やLyft(リフト)が、ホテル業ではAirbnb(エアビーアンドビー‎)が台風の目となっているのは、もはや言うまでもないだろう。前述のAffirmも含めてこれらの企業はすべてサンフランシスコ市内に拠点を置くが、JPモルガン・チェースのダイモンCEOの言い方に従って、彼らのこともシリコンバレー企業と述べることにする。