エンジニアとして新しい挑戦したい、要求のハードルが高くて既存技術では実現できないなど、新技術に取り組みたい理由はさまざまある。しかし、いざ新技術を使おうとすると「前例がない」「何かあったらどうする」と社内からストップが掛かる。仕方がない。使い慣れた技術を使ってできる範囲で実装しよう――。

 多くの読者は、よくある話だと感じるかもしれない。しかし、よく考えてみるとかなり危険な選択をしているともいえる。そもそも新技術が生まれるのは、既存の技術で生じた何かの課題を解決したいからだ。新技術を使わないという選択は、目の前の懸念を最小化して捉えていることにほかならず、その後に発生する問題を結果的に大きくしているのかもしれない。

 ならば新技術に挑戦するべきか、となると冒頭の懸念に戻る。堂々巡りだ。

 筆者は、「勇気を出して新技術に取り組むべきだ」なとどいうつもりはない。新技術に不安を感じるのは、「リスクがある」と考えているからだ。新技術は、とにかく分からないことが多い。まず、新技術を使って要求を満たせるかどうかが分からない。使い方を正しく把握して、納期までに十分な品質で完成させられるかどうかが分からない。継続的に改良されるようなスジの良い技術かどうかが分からない。こうした分からないゆえの不確実性、つまりリスクがある。

 ただし、このうち技術的なリスク(技術リスク)については、計画とプロセスにより軽減する方法がある。どうすればよいのか。前例がほとんどなかった新技術を、全社的なインフラ基盤に導入したヤフーを例に見ていこう。

社内IaaS基盤をOpenStackにしたヤフー

写真●ヤフーの伊藤拓矢氏(CTO テクニカルディレクター)
写真●ヤフーの伊藤拓矢氏(CTO テクニカルディレクター)
[画像のクリックで拡大表示]

 ヤフーは2013年、社内IaaSの基盤を独自開発ソフトからオープンソースソフト(OSS)の「OpenStack」に切り替えた。刷新を担当した、CTO テクニカルディレクターの伊藤拓矢氏は「検討した当時、大規模な事例は(初期のソースコード寄贈者である)米Rackspaceや米NASAくらい。日本では存在しなかった」と振り返る(写真)。典型的な“前例がない”プロジェクトだ。

 最も単純な技術リスクの回避は「社内IaaS基盤を刷新しない」だが、この選択肢はビジネス的な問題があった。「独自開発したIaaS基盤が、アプリケーション開発の足を引っ張り始めていた」(伊藤氏)のだ。インフラ部門は運用に手一杯で基盤ソフトの拡張に手が回らず、アプリケーション開発者の要求を満たせなくなっていた。経営スピードを重視するヤフーでは放置できない状況だ。