これから見せ場を迎えるはずの「千両役者」が早くも舞台を去っていく――。ソフトバンクグループが6月21日に発表した、ニケシュ・アローラ代表取締役副社長の退任という電撃人事のことだ。

写真●2015年の決算説明会でニケシュ・アローラ氏の副社長就任を発表する孫正義社長
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写真●2015年の決算説明会でニケシュ・アローラ氏の副社長就任を発表する孫正義社長

 アローラ氏は約10年の米グーグル在籍中に上級副社長まで上り詰めた、IT業界中心に世界で顔が利く人物だ。2014年9月、グーグルでの地位をなげうって孫正義社長(写真)率いるソフトバンクへ電撃移籍したことは、世界的なニュースとなった。孫社長自身から事実上の後継者指名を受けていたことでも有名だ。通信業界の取材を続ける中、2人の蜜月ぶりを見慣れていた筆者にとって、今回の退任劇はまさに青天の霹靂だった。

 だが、退任発表から時間が経った今は「それほど意外なことではない」と冷静に受け止めている。アローラ氏が初めて「後継者指名」を受けた場に筆者はいた。そこで感じた小さな違和感を今になって思い出したのだ。

30分で変化した「後継者」発言

 2015年5月11日午後、東京証券取引所。新聞社やテレビ局の記者が待ち構える2015年3月期通期の決算会見に、孫社長とアローラ氏が連れ立って姿を見せた。3時に会見が始まると、孫社長はアローラ氏の代表取締役副社長就任を公表。「彼の英文の肩書は『プレジデント』になる。この肩書を他人に与えるのは初めてだ」と話した。

 この時の孫社長は自分から後継者の話を持ち出したわけではない。「今回の人事は孫社長の後継者候補という理解でよいのか」という報道陣からの質問を受けた発言だった。

 「私はまだ引退するわけではないし、『いつ、どういう形で』ということは今コメントすべきでない」と断りをいれたうえで、「現時点で、最重要な私の後継者候補であることは間違いない」と続けた。「ニケシュが事故に遭うかも知れないのでまだ分からない」という言葉もあったと記憶している。