このところ、「これは失敗プロジェクトといっていいのだろうか」と、考え込んでしまう機会が増えた。かつては、「期限までに開発が完了しなかった」「稼働はしたものの不具合続き」といったシステム開発プロジェクトなら、「失敗」といって差し支えなかった。

 でも、こんなプロジェクトはどう評価すべきだろう。

 とあるインフラ企業の、新サービスのためのシステム開発プロジェクト。法制度の関係で、新システムの稼働日は2016年4月と決まっていた。このシステムを使って、取引先企業に定期的に情報配信をする必要があった。

 この会社は、新システムを何とかスケジュール通りに稼働させる。ところが、稼働直後からトラブルが発生。取引先企業への情報配信が一部滞ってしまう。

 社会的にも大きな問題になり、謝罪や対応に追われた。トラブルの原因は、システム内部の不具合や、要件漏れ。しかしトラブル対応が最優先となったこともあり、システムを改修し、事態を収拾するまでに半年以上を要した。

とにかく稼働したのだから失敗じゃない?

 このシステム、もしかするとご存じかもしれない。東京電力パワーグリッド(東電PG)が開発した、「託送業務システム」のことだ。電力小売りの全面自由化が始まる2016年4月に稼働させる必要があり、実際に稼働したものの、小売事業者に電気使用量を通知できない不具合があった。その未通知件数は、最大時で3万件を超えた。

東京電力パワーグリッドの本社
東京電力パワーグリッドの本社
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 東電PGにとっても全面的な電力自由化というのは初めてのことであり、開発プロジェクトは困難を極めたと聞く。ただし「2016年4月」という稼働開始時期は、何とか守った格好だ。

 というより、東電PGにとっては稼働日を守ることが最優先だったのだろう。電力自由化は政府の閣議決定により決まった「政策」。東電PGは、システム開発プロジェクトの遅れがそれを揺るがすようなことはあってはならない、という認識で取り組んでいたはずだ。

 本題に戻ろう。この東電PGの開発プロジェクトは、不具合が続出したのだから「失敗」とするべきだろうか。

 しかし考えてみてほしい。最も重視していた稼働日は死守している。多少のトラブルはありつつも、電力自由化にはこぎ着けたのだから、「失敗」とまではいえないのではないか。

 いくらバグや不具合がなく、業務の全てを考慮した機能を備えているシステムを開発しても、2016年4月に間に合わなければ、電力小売り全面自由化は立ち行かない。政府にとっても東京電力グループにとっても大きな痛手となっただろうし、電力市場は大混乱に陥ったはずだ。