「一言で言えば“地銀の乱”。あそこまで急展開するということは水面下で何かがあったと考えるのが妥当でしょうな」。某銀行の幹部はこう漏らした。

 2016年5月下旬、新聞各紙は一斉に「保険手数料開示見送り」を報じた。金融庁が2016年10月に予定していた銀行窓口での一部保険商品の手数料開示に対し、地銀界が収益への悪影響を懸念して反発。結局、金融庁が目論んでいたスケジュールは延期となった。

 金融庁は投資信託と同様に、投資性が強い外貨建て保険や変額年金を販売した銀行に対して保険会社が支払う手数料の情報開示を迫っていた。情報を十分に開示せず、利ざやを抜いているケースが見受けられたことに加え、顧客にとって最適な商品ではなく、手数料収入の多い保険を薦めているのではという懸念があったからだ。

 銀行窓口で投資信託や保険商品などを販売する、いわゆる「窓販(まどはん)」。もともとは1996年に第二次橋本内閣が進めた「金融ビッグバン」の一環として、それまで認められていなかった窓販の議論が始まり、2001年以降、順次解禁されてきた。

 2007年に死亡保険、医療保険、がん保険、自動車保険などの販売が認められたことで全面解禁に至り、現在では5兆円を超える市場に育っている。特に外貨建て保険と変額年金の販売額は約1兆8000億円で、まさにドル箱。ここにメスが入り、不透明だった手数料が白日の下にさらされれば、引き下げ圧力が強まるのは必至だった。地銀界としても、どうしても抵抗せざるを得ない状況だったようだ。

 日本銀行による度重なる異次元規模の緩和、特に2016年1月末に市場の意表を突いて発表されたマイナス金利導入で、振り回されるいっぽうの地銀界の感情も分からなくはない。

 だが、この騒動を見て、筆者は顧客が蚊帳の外に置かれていると感じてしまった。