GROOVE X 代表取締役の林要氏
GROOVE X 代表取締役の林要氏
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 「最終的には、人間の『無意識』をハックすることを目指したいですね」。

 ソフトバンクの人型ロボット「Pepper」の元開発リーダーで、現在はGROOVE X 代表取締役の林要氏から聞いた言葉に、記者はハッとした。というのは、「役に立たないAI」の本質を表すのに、これほどいい言葉はないな、と思ったからだ。

 GROOVE Xは、「人を癒やすロボット」の開発を目指すスタートアップ企業だ。2019年の製品化を目指す新開発のロボットは、しぐさ、光、温度など、「非言語のコミュニケーション」で人の心を癒やすことにこだわる。デザインは「人型ではなく、何かの動物に似せる気もない」(林氏)。高齢者や病院患者向けのアザラシ型癒やしロボット「パロ」と方向性は似ているが、「より幅広いユーザーに受け入れられるものになる」(林氏)という。Pepperの場合は、会話などの「言語」と、しぐさなどの「非言語」の両建てだったので、方向転換をしたわけだ。

 ちなみに、GROOVE Xのチームは、常勤・非常勤含めて20人ほど。Webサービス開発、データサイエンティスト、輸送機器開発、さらにゲーム開発、おもちゃ開発など、多様なバックグラウンドの人材が集まる。「ここまで専門が違うと、お互いがやっていることが魔法に見えてくる」(林氏)。そこに、林氏の狙いがある。どのようなロボットを作れば「人の無意識をハック」できるのか、世界の誰も答えを持っていない。そこで、異なる背景を持つ人材が、互いに見たこともないアイデアを持ち寄ることで、新たな切り口が見えてくるのでは、と期待している。

役に立たないAIの系譜

 ここで記者の持論を述べたい。ものすごくおおざっぱな言い方で恐縮だが、コンピュータやロボットを自律的に動かすAIの設計コンセプトは、大きく2種類に分かれる、と記者は考えている。「役に立つAI」と、「役に立たないAI」だ。

 役に立つAIとは、クルマの自動運転、コールセンターの代替、バーチャル秘書といった、作業の効率化・省人化、人間のアシストを目指したAIのことだ。ネガティブな表現で言うなら「人の仕事を奪うAI」で、昨今、マスコミを賑わせているAIの多くはこちらだろう。

 一方で役に立たないAIは、まさに林氏が開発を目指すような、癒やしやエンターテインメントを目的としたAIだ。ロボットの自律動作AIに加え、リクルートグループの「パン田一郎」、日本マイクロソフトの「りんな」といった雑談チャットボットも、この部類だろう。もちろん、癒やしやエンタメといった分野で「役に立っている」のだが、産業分野で目に見える成果をあげているAIと対比させるために、敢えてこういう表現を使っている。やや語弊がある表現だが、ご容赦願いたい。

 本記事では、「役に立たないAI」の過去と現在を振り返りながら、そうしたAIが当たり前にいる未来を想像してみたい。やや長めの記事になるが、付き合っていただければ幸いだ。

役に立たないAIはAIBOから始まる

 かつて「役に立たないAI」というコンセプトを産み、それを徹底的に追求したロボットがあった。ソニーが1999年6月に発売したエンターテインメントロボット「AIBO」である。