相次いで発表されたITベンダーの2015年3月期決算。例年いろんな“ドラマ”があるものだが、今回は至って無風。特に、株主や投資家から大きな成長を期待されていないSIerの経営者は、昨年までの緊張感がまるで無い。2年前に多くのSIerで一斉に露見し、投資家らが問題視していた巨額の不採算プロジェクトの問題が完全に一掃されたからだ。

 例えばNTTデータでは、2014年3月期には315億円の減益要因になっていたが、2015年3月期には155億円まで減少した。しかも、同社によれば「2013年度に発生した国内の不採算案件は2015年度内に全て収束し、追加の損失は発生しない」とのことだ(関連記事: NTTデータの2015年3月期は増収増益)。これは他のSIerも同様で、経営者は皆ニコニコ顔だ。

 実は、今期の業績予想や施策についても、多くのSIerの経営者が同じことを言う。つまり「無理に売上高を追わず、不採算案件を出さずに増益を目指す」ということだ。例えばNTTデータは今期の売上高を対前期比1.9%増にとどめ、営業利益を同19.0%増として過去最高の1000億円を狙う。今期のITサービス市場の伸びは2%未満の予想だから、「売り上げ面で一切無理はしない」と言っているに等しい。

 こうしたSIer各社の事業方針は一見すると素晴らしい。成長産業でない以上、売り上げを追って不採算案件というババをつかむより、無理をせず利益率の向上を図るのは正しい選択だ。大炎上プロジェクトが無くなれば、技術者もデスマーチから解放される。実際、各社とも案件審査を厳しく運用することで、ババつかみの危険を完全に排除するとしている。

 だが少し考えると、こうした取り組みは当たり前の話であり、現状では評価に値しないことに気付く。そもそも今は、超大型プロジェクトが集中したのと景気回復が重なり、案件に事欠かない。下請けも含め動員できる技術者は不足しており、売り上げをむやみに増やせる状況にない。むしろ案件を選別しなければいけない。そんな中では、不採算案件を抑え増収を果たしたとしても自慢になる話ではない。