今から110年前に当たる1907年、タイで最初の商業銀行が産声をあげた。サイアム商業銀行(SCB)である。当時の国王ラーマ5世の弟が1904年、試験的に設立したブッククラブという小さな商業銀行が基になったという。
SCBは今もタイ四大銀行の一角を占める大銀行だ。コーポレートカラーである紫色の支店やATM(現金自動預け払い機)は、バンコク市街中で見かける。広大な敷地を持つSCBパークプラザの中心にそびえる本社ビルは日本のメガバンクを遙かに凌ぐ威容で、この100年企業の経営は盤石のように見える(写真1)。
そんなSCBには、100年の歴史を持つ王室系銀行というイメージには、およそ似つかわしくないアニメチックなテイストの絵が飾られてある。壁の壊れたビルにたたずむ一人の銀行員が描かれてある。SCBは、現在の伝統的な銀行の世界からFinTechの世界に移行するという決意を表したものだ。
穴の向こう正面のビルには、「FinTech」と書かれており、右側のビルには(分かりにくいかもしれないが)代表的なFinTech企業である米LendingClubの文字もある。銀行員が立つビルの左側にあるイスは、SCBの行内で使っている実際のものをモチーフにしたという(写真2)。今の立場に安住していては、銀行は立ちいかなくなるという警告を込めてある。