「トヨタ生産方式は、iPadや、価格が数百円のセンサーといったITを使うことで、より一層進化できる」。製造現場のワークスタイル変革について取材していくなかで、記者はこう確信するようになった。

 記者は、日経情報ストラテジーの2015年1月号から、「ワークスタイル変革人の仕事術」という定型コラムを担当してきた。これまで約30社の取り組みを誌面で紹介している。変革対象はオフィスワークや、外回りが中心の営業業務、建設現場や工場での働き方など、各社によって様々だ。

 冒頭の確信は2社の工場を取材して得た。2017年6月号で紹介した機械化車両などのメーカーであるアイチコーポレーションと、2017年1月号で紹介した自動車部品メーカー、旭鉄工(愛知県碧南市)だ。

 2社の共通点は、製造現場にトヨタ生産方式を適用して、現場で積極的にカイゼン活動を実施していることだ。さらにiPadやセンサーといったITを、工場内の生産状況をリアルタイムに把握するために活用し、カイゼン活動の活性化につなげている。

 カイゼン活動で最も難しいのが、「どの作業にどれだけの時間がかかっているのか」を細かく把握することだ。一般には、製造ラインの担当者とは別に、担当者を配置して、ストップウォッチを使って計測するといった方法で把握する。ただし、計測担当者を毎日配置できるわけではないので、リアルタイムで把握するのは難しい。

現場へ情報を提供するiPadで時間を計測

 iPadの導入を機に、リアルタイムで作業時間の自動計測を進めているのが、アイチコーポレーションだ。電気やケーブルテレビなど工事に使う、高所作業車などの製造ラインで、iPadを活用している(写真1)。

写真1●アイチコーポレーションの高所作業車の製造ライン。仕様が異なる高所作業車を同じラインで作り上げていく
写真1●アイチコーポレーションの高所作業車の製造ライン。仕様が異なる高所作業車を同じラインで作り上げていく
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 iPadのそもそもの導入目的は、現場の作業担当者に配布していた紙の指示書を電子化し、iPadで閲覧できるようにすることだ(写真2)。同社では、製造ラインに配布する作業指示書が1日6000ページに上っていた。同じラインで、仕様が異なる高所作業車を製造していて、車両ごとに指示内容が異なるためだ。

写真2●高所作業車の製造ラインに流れる車両は、それぞれ作業内容が異なる。かつては1日6000ページもの紙の指示書類を現場担当者へ配布していたが、今はiPadから見えるようにしている
写真2●高所作業車の製造ラインに流れる車両は、それぞれ作業内容が異なる。かつては1日6000ページもの紙の指示書類を現場担当者へ配布していたが、今はiPadから見えるようにしている
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 そこで2014 年10 月、iPadアプリ「作業ナビゲーションシステム(作業ナビ)」を開発。現場向け作業指示書を電子化し、紙文書を配布する手間を省くことができた。

 この作業ナビに、作業担当者が担当する作業にどれだけの時間をかけているのか、つぶさに把握する機能を、組み込んでいる。製造ラインの担当者は、作業ナビに表示された作業の一覧から取り掛かる作業をタップ。すると、作業の詳細が表示される。それだけでなく、バックエンドで作業にかかる時間計測を開始するようにもした。

 担当者がその作業を終えると、次の作業の詳細を見るため、作業一覧の画面をタップする。するとそれまでの作業の時間計測を終えて、同時に次の作業の時間計測を自動で始めるようにしている。

 前述のとおり、製造ラインで作業時間の計測では、ストップウォッチを使う方法が一般的だ。アイチコーポレーションのこのやり方なら、担当者に作業時間をストップウォッチで計測させる負担をかけることなく、現場の作業時間をつぶさにつかめる。実際、時間がかかりすぎている作業などを特定でき、カイゼンにつなげやすくなったという。