なぜそう考えたのか今となっては分からないが社会人になり立ての頃、50歳ぐらいで働くのを止めて後は好きなことをして暮らしたいと思っていた。ところが56歳の今も仕事は続けているし、仕事の量を年々増やしている気がしてならない。

 一方、頭と体は衰えつつある。人の名前など固有名詞がなかなか思い出せない。この半年間で老眼が悪化し、辞書の文字がまったく読めず虫眼鏡を使っている。1カ月前には極めて軽かったがいわゆるぎっくり腰になった。

 それでも夜の1時や2時まで原稿を書くのは平気なのだが後数年で60歳になること、しかも隠居などできず60歳以降も働き続けなければならないこと、を考えると何らかの改善が必要である。

 改善に先立ち、現状を把握しなければならない。自分は「一生食べていけるキャリア」を持っているのだろうか。実は頭の中の辞書に「キャリア」という言葉はなく、したがってこの言葉を使うことは滅多にないのだがあえて持ち出したのは4月末に出版された本をたまたま読んだからだ。

 『エンジニアの成長戦略 一生食べていけるキャリアをつくる』(匠習作著、日本実業出版社)という本である。匠氏は機械と総合技術監理の併願で技術士を受け、合格している。30年以上のエンジニアキャリアを通じて彼が身に付けた「自分の判断で自分の人生を設計し、PDCAで見直しながら、自分の夢を実現」するやり方を書いたという。

 通読し、印象に残った記述を抜き書きしたところ、10カ所あった。それぞれについて自問自答した結果を『「一生食べていけるキャリア」の有無が分かる10の質問』と題して報告する。

 この題名に疑問を抱く読者がおられると思うので説明したい。10の質問を勝手に作ったわけだが、それはそれで意味がある。実際、『エンジニアの成長戦略』の著者である匠氏は「どこから読んでも構わない。(中略)気軽に飛ばし読みして頂ければいい。それよりも、実践することのほうがはるかに大事だ」と冒頭に書いている。

 10の質問のどれかに関心を持った方は実践してみていただきたい。10の質問に飽き足らない方はこの本かあるいは別のキャリア関連本を読み、自分のための質問項目を作ればいいだろう。

 「そもそもエンジニアと記者や編集者は違う職種だ」という指摘が出そうだ。匠氏はエンジニアを「発明する人」と定義している。記者や編集者も発明する、とまでは書けないが、新しい何かを考案し、作る。エンジニアの中でもソフトウエアに関わる方と記者や編集者とは案外近いと思っている。

 日経コンピュータの編集長を務めていた時、Linuxを作ったリーナス・トーバルズ氏にインタビューした。トーバルス氏は「自分の仕事は雑誌の編集長のようなもの」と語った。Liunxという雑誌の編集方針は彼が決める。編集者や記事(プログラム)を書く記者は彼が選べる。編集長である彼が自ら記事を書く時もある。

質問1・人生設計図を描いたか

 「自分の人生が最も重要なプロジェクトであるはずだ。その最も大きいプロジェクトに計画表も設計図も作らないで挑むのはエンジニアらしくない」

 偶然だが4月末まで、人生を含む個人の諸活動をプロジェクトとみなし、それをマネジメントするための本を編集していた。ある理由から編集していて疲れを感じた。ようやく編集を終え、骨休めに匠氏の本を読んだところ、上記の文章に出くわし、さらに疲れてしまった。

 なぜ疲れたかというと自分の人生の設計図を描き、見直してきたキャリアがないからである。おぼろげな案を思い浮かべたことはある。その案を差し替えたこともある。だが人生をプロジェクトに見立ててマネジメントしてきた、PDCAを回してきたとは到底言えない。やってこなかったことをやるべきだと書かれた文章を読むと気が重くなる。

 強いて言うなら10年前、2007年に自分はどういう書き手になりたいかを考え、短い文章にまとめたことがある。それを紙片に手書きし、毎日持ち歩く手帳にはさんである。こういうものを作りたいと書いただけで設計図になっていないが、設計図につながる何かを書いたということにして話を進める。