日本音楽著作権協会(JASRAC)の会長は、JASRACに楽曲を信託している作詞家・作曲家のなかから互選で選ばれる。会長になれば、著作権の啓蒙活動や文化審議会などでの知財政策を巡る意見表明、海外の著作権管理団体との交流や折衝といった多くの役割を担う。

 ピンクレディーや山口百恵のヒット曲を数多く手掛け、JASRACの会長職を3期6年務めてきた作曲家の都倉俊一氏に代わり、2016年4月からは千昌夫や森進一などに楽曲を提供してきた作詞家のいではく氏が就任している。

 そのJASRAC会長に人工知能(AI)が就任する可能性はあるだろうか。そんな荒唐無稽な――、と思うかもしれない。では、「自身は作詞作曲のセンスのかけらもないが、AIを駆使して人々に愛されるミリオンセラーを連発した人」はどうだろう。今後のAIの進化次第では、あながち夢物語とも言い切れないのではなかろうか。

知財本部「AI創作物に保護の枠組み検討を」

 そんなことをふと想像するきっかけとなる出来事があった。政府の中長期的な知財戦略を検討し、その方向性を打ち出す役割を担う知的財産戦略本部。いくつかある分科会の一つである「次世代知財システム検討委員会」が2016年4月、興味深い報告書をまとめた。人工知能(AI)によって生成される音楽や絵画、小説、デザインなど(以下、AI創作物)に対し、何らかの形で法的に保護する枠組みを検討するよう提言したのだ。

 5月にも発表予定の「知的財産推進計画2016」に盛り込み、その後は法整備に向けた具体的な検討に入るとみられる。仮に著作権や特許、意匠など既存の知的財産と似た枠組みとして法制化されれば、「知的財産は自然人が創作したもの」という今までの常識が変わることになる。この問題の概要と今後の展望を、著作権を中心に見ていこう。