半年後の10月半ば以降、「マイナンバー(個人番号)」の世帯単位での通知が始まり、年明けの2016年1月からはいよいよマイナンバー制度の運用が始まる。この3月には若手人気女優とウサギのキャラクター「マイナちゃん」が共演するテレビや新聞での政府広報も展開され、制度に対する国民の認知はようやく広がり始めたというところだろう。

 政府は、マイナンバー制度導入の目的として「公平・公正な社会の実現」「国民の利便性の向上」「行政の効率化」を掲げ、制度への理解を求めている。併せて「個人番号カード」の利便性を訴え、2016年1月の申請・交付開始からわずか3カ月の間に計1000万枚を発行する計画である。

 こうした住民個人への訴求と併行して、政府は企業にも対応を呼びかけている。マイナンバーは行政機関・自治体での行政事務に活用するが、住民の税・社会保障に関する各種届け出は、住民個人が提出するよりも勤務先企業を通して提出されるケースが多いためだ。企業が従業員などのマイナンバーを集めて、法定調書などに正しく記載して官公庁に提出してはじめて、制度運用が軌道に乗る。

 企業での対応が不十分なままだと制度が機能しないうえ、勤務先企業や業務委託先から従業員のマイナンバーを含む「特定個人情報」が漏洩すれば、批判は国や制度そのものに向かいかねない。このため、政府広報の企業向けの説明は、企業での対応が必要なことの周知と、安全管理措置などのマイナンバー取り扱い実務の解説・注意事項が、ほとんどを占めている。

 企業は、制度対応のための検討体制の整備に始まって、社内規定の見直し、従業員やパート・アルバイトからマイナンバーを収集するための業務フローの構築、人事・給与システムの改修、特定個人情報の安全な管理や業務委託先の監督のための措置、従業員の教育・研修などを実施する必要がある。制度の運用開始が間近に迫っていることもあり、企業の間には焦燥感に加えて、“やらされ感”や“被害者意識”も漂う。

 政府は住民個人に向けては、課税や社会保障給付の公正さの確保、プッシュ型やワンストップ化などの様々な行政サービスの高度化などをうたっているが、一方で多様な対応作業を強いられる企業に対してはメリットをほとんど示していない。マイナンバー制度で、企業は本当にメリットを得られるのだろうか。