政府はマイナンバー制度での国や自治体間での「情報連携」と、個人向けポータルサイト「マイナポータル」の本格運用を、当初計画の2017年7月開始から3カ月程度延期して10月ころにすることを決めた。

 マイナンバー制度担当大臣でもある高市早苗総務大臣は3月17日の記者会見で、スケジュール見直しの理由について、「私自身が“利用者目線”にこだわって、住民にとって、より使い勝手がよい形でサービスを提供できる時期を再検討した」と説明。PCでのマイナポータルの利用では、操作マニュアルを読まなくても設定ができ、専用アプリのインストールだけで3分以内に準備を完了できるようにするとともに、スマートフォン向けに専用アプリの提供時期を半年ほど前倒すことを表明した。

 高市総務相が述べた「利用者目線での使い勝手」は、今後の電子行政サービスのあり方を規定するキーワードである。政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)は、利用者の感情・行動まで含めた体験全体が最良となるようにサービス全体を設計する「サービスデザイン思考」を、「新たな電子行政の方針」の基盤に据える意向だからである。

 ただ、この新方針は、当面はこれから開発する新しいサービスから適用していくことになる見通しだ。既存のサービスの抜本的な見直しは、制度の大幅な変更やシステム更新のタイミングで実施することになる。

 だが、本来有用なサービスであっても、使い勝手の悪さが原因で利用が低迷し、限られた数の利用者が渋々使い続けているケースもあるはずだ。本来大きなニーズがあっても、使い勝手が悪いために利用者数が伸び悩んでいると、政府が「需要のないサービス」と誤解して、サービスの見直しを後回しにしたり、サービスそのものを停止したりしてしまう恐れがある。

 少なくない企業・組織で人事異動を伴う新年度が始まったばかりでもある時期なので、本記事では代表的な電子行政サービスの概要を紹介する。もし使い勝手に不満があれば、ぜひ各サービスの問い合わせ窓口などに声を届けてほしい。せっかく政府が聞く耳を持つ気になったのだから、利用者である国民にとっては大きなチャンスである。

 また、政府は電子行政の新しい方針の中で、行政サービスを官民の連携によって提供していく新しい考え方も掲げている。既存の電子行政サービスに対する不満は、企業にとってビジネスチャンスにもつながるはずだ。