「なんてひどい話だろう」。日経ビジネスの取材班が、内部告発や取材を基に東芝の内情を描いた書籍「東芝 粉飾の原点 内部告発が暴いた闇」を読んだ感想だ。

 東芝の状況は、この本が発行された2016年7月に比べ、さらに悪化している。子会社の米ウェスチングハウス・エレクトリックがチャプター11(米連邦破産法11条)を申請し、赤字は前代未聞の1兆円超にまで拡大。フラッシュメモリー事業も売却を迫られている。事業が次々に切り売りされていくさまを「多重債務者が内臓を売られているようだ」と表現する意見もネットで目にした。

 この本を読んで感じたのは、東芝を危機に陥れた歴代経営者の「驚くほどの志の低さ」だ。業績が好調なように見せかけるために、「チャレンジ」という名目で下の人間に不正を強要する。そして会計の不正操作や社内政治が得意な人間ほど昇進していく。まるで「志を捨てること」が出世の条件のようだ。東芝にはエンジニアの知人もいるが、まじめに仕事をしている社員にとって、本当に報われない話だと思う。

 もっとも、東芝がここまでひどい状況に陥ってしまったのは、ウェスチングハウスという「巨大なババ」を引いてしまったせいだという面もある。

 どんな会社にも「顧客にまじめに向き合う社員よりも社内政治が得意な社員の方が偉くなる」という傾向は多かれ少なかれある。どこまで本当かわからないが、「ある大手メーカーで新事業が大失敗したにもかかわらず、上の覚えがめでたい責任者が逆に昇進した」「財務の知識が全くない社員がなぜか最高財務責任者(CFO)に就任した」といった話を聞いたこともある。

自分の運命をコントロールできない

 結局、人事評価や昇進を決めているのが「人」である以上、主観を排除するのは不可能だ。万人が納得する人事はありえない。上司の心証次第で、実態よりも高い評価を受けたり分不相応な出世をしたりすることもあれば、高い成果を上げたにもかかわらず低い評価を付けられることもある。