「orenznero(オレンズネロ)」が市場から消え、とにかく手に入らない。ぺんてるが2017年2月に発売した、税抜き3000円の高級シャープペンシルのことだ。人気の理由は、通常の3倍近い28点もの部品を採用し、ノック不要で勝手に芯を繰り出し続けてくれる「自動芯出し機構」機構を径0.2mmで世界で初めて実現したこだわりにある。

2月に発売した「orenznero(オレンズネロ)」が大人気。ちなみに製品名は上から読んでも下から読んでも同じ回文となっている
2月に発売した「orenznero(オレンズネロ)」が大人気。ちなみに製品名は上から読んでも下から読んでも同じ回文となっている
出所:ぺんてる
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 月産3000本という“レア”さも手伝って今、日本中の文具好きたちが争奪戦を繰り広げている。発売と同時に市中から在庫が消え、4月に入っても全国約600の取扱店の販売コーナーはどこも「在庫切れ」の貼り紙を掲出。小学生のころから文具マニアである筆者もこれが欲しくて欲しくてたまらないのだが、休日に文具店巡りをしても一度も巡り会ったことがない。予約注文もしてくれないので、一体いつになったら手に入れられることやら……。

実は活況呈す文具市場

 さて、スマートフォンが普及し、様々なものがアナログからデジタルへシフトするなか、ペンとノートもいずれ消え去る運命かと思えば、どうやら違うようである。矢野経済研究所の調査によると、2015年度の国内文具・事務用品市場規模は前年度比1.0%増の4598億円なのだそうだ。万年筆は19.1%増の46億8000万円、鉛筆市場も18.0%増の82億円と好調だというから驚きだ。

 オレンズネロ人気も、こうした背景に支えられているのだろう。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を調べてみると、「受験勉強にも集中しやすくピッタリ」といった意見も散見される。スマホネイティブな中高生の間でも話題に上っている。

 記者という仕事の特性上、お目にかかることができた相手の話を聞き、心に刺さったところを記録するという作業を筆者は毎日のように繰り返している。入社当時はノートを開きペンを走らせるのが当たり前だったが、最近はノートパソコンで取材メモを取る同僚も少なくない。

 出版の世界も例外なく効率が重視されるようになり、筆者も「PCメモ派」への転向を何回かチャレンジしてみたことがある。ただ、カチャカチャという雑音を相手の前で平然と発生させるのは礼儀違反な気がするし、相手の目を見て話を聞くというまたとないチャンスを無駄に過ごす気がして、どうにも受け難いものがあり挫折してしまった。

 だったら、デジタルとアナログの中間はどうかと、タブレットiPad ProとApple Pencilの組み合わせや、モレスキン「スマートライティングセット」のような筆跡を記録して書いた文字列や絵をスマホ上で再現してくれる最先端のデジタルペンも試してみた。しかしどれもこれも、どうもしっくりこない。

 確かにデジタイズするガジェットとしての面白さから、試している最初のうちは楽しい。ただ、好みの書き心地のペンとノートでメモを取り、後でスキャンする以上のメリットと魅力を感じさせてくれるものに未だに出会えていない。