「アップルは大のお得意様。どんな無理難題を言われても、歯を食いしばって対応するしかない。ビジネスだからね」。

 国内のある電子部品メーカーの幹部が、苦笑いしながらこう話していたのをよく覚えている。米アップルのスマートフォン「iPhone」シリーズで最大級のヒットとなった「6」の量産に向け、国内の部品供給メーカーが好景気に沸いていた2014年ころのことだ。

 「無理難題とは何ですか」。こう尋ねると、この幹部は本音とも冗談ともつかない口調で答えた。「それは明かせないが、これだけは言える。アップルがいずれ落ち目になった時、『助けたい』と思う日本の部品メーカーは1社もない」――。

部品業界、アップル流に悩まされる

 最近、iPhone発売からの10年を総括する記事をよく目にする。読み終わると、いつも思い出すのがこの幹部の言葉だ。確かにiPhoneの登場をきっかけに、スマートフォンが携帯端末のみならず、あらゆるIT関連産業の新陳代謝を加速させた。マクロで見れば、スマホは消費者の最も身近な端末となり、様々なサービス市場を創出したといえる。

 ただ、その発展を支えてきた企業のアップルに対する思いは複雑だ。筆者がこの数年でよく取材していた携帯電話業界と電子部品業界。かたやiPhoneの販売、かたや内蔵部品の製造であり、両者は一見縁遠いように見える。だが、いずれの業界でも経営層が「iPhoneに関する取引は“不平等条約”のようなもの」とため息交じりに語るのを何度も聞いた。

 携帯電話業界で何が起こったかはITproの他の記事に譲り、ここでは電子部品業界とアップルの関係を振り返ってみる。一言でいえば日の丸部品メーカーの10年は、iPhoneによって”泣いたり笑ったり“だったといえよう。