自分は絶対にしないと思い込んでいた行動がいくつかある。女性アイドルに夢中になることはその一つである。どれほど可愛いとしても少女が歌い踊る様を愛でる趣味など欠片も無かった。ところがこの2年ほど毎日のように、あるアイドルグループの動画を観て、音源を聴いている。コンサートなどの動画を喜んで眺めている。仕事で使っているパソコンの待ち受け画面はそのグループのボーカリストの写真にしてある。

 しかも50代半ばにしてファンクラブというものに初めて入り、コンサートが開かれるたびに申し込んでは当落に一喜一憂するようになった。そのアイドルグループは5年以上活動しているにもかかわらず持ち歌が10数曲しかなく、5、6種類発売されている映像ディスクに入っている曲目はほぼ同じなのだが、切符の抽選に外れると悔し紛れにディスクを買い、深夜鑑賞している。

 アイドルの話から始めたのは今、そのことしか頭にないからだ。いや、これは誇張である。正しく書くと、ある問題とそのアイドルで頭の中は占有されている。ある問題とは労働、日本型雇用、生産性、女性活躍、少子高齢化などで、これらを主題とする書籍の編集に昨年から没頭していた。前回の本欄で「筆者が今抱えている大きな仕事は『時短』に関するものでITとはほぼ関係ない。時短ないし時間当たり労働生産性という言葉で頭の中が占有されているため本原稿も同じ題目にした」と書いたのは、この本のことであった(『「年収は下がりますが6時に必ず帰れます」』参照)。

 書籍を一冊編集しようとすると、ざっと10万字前後の文章と数カ月格闘することになる。どこに何が書いてあったか、大体のところを覚えていないといけないから頭の中は本のことで一杯になってしまう。書籍の編集中に、とあるIT企業の相談に乗ったのだが、相手が最新の分散処理技術を説明しているのに「時短につながるのか」「労働生産性は上がるか」「雇用に影響しないか」といった質問ばかり浮かんできた。

 三連休を費やし、3月22日にその書籍の編集作業をついに終えた。ところが何かあるたびに仕事を無茶振りしてくる上司の上司から「生産性向上についてまとめよ」という指示が来た。はっきり言って生産性と聞くともう胸が一杯なのだが拒否できず、引き続き生産性について考えている。そこへITproの「記者の眼」欄に書く順番が回ってきたが時短や生産性について前回書いてしまった。それ以外に書けそうな題材となると女性アイドルグループしか残っていない。もうしばらくするとITプロフェッショナルにも関連する話になるはずなのでお付き合い頂きたい。