要件定義といえば、経営ビジョンに基づいて現状の課題を明らかにし、あるべき姿を導くもの。その多くの議題は、新システムに実装すべき「業務プロセス」や「機能」だった。

 だが、日経SYSTEMS4月号の特集関連で、要件定義の取材でIT現場を訪れた際、ある変化に驚いた。多くのIT現場が違っていたのだ。情報システムの「安・速・快」に、経営層や業務部門の目が向けられていたのだ。安とは「安心・安全」、速とは「速度」、快とは「快適性」を指す。いずれも「非機能」に当たるもので、従来重視されてきた機能に匹敵するほど存在感を増していた。

「安・速・快」でビジネスに勝つ

 今重視されているのは、「安・速・快の要件定義」といっていい。

 例えばジャパンネット銀行がその1社である(写真1)。最後発の外貨預金システムを昨年開発したときのこと。「安・速・快」がビジネスに勝つための要求だったという。

写真1 ジャパンネット銀行のプロジェクトメンバー
写真1 ジャパンネット銀行のプロジェクトメンバー
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 中でも「速度」にはこだわった。画面のボタン上に表示する為替レートを200ミリ~500ミリ秒の頻度で更新するもの。「先行する競合他社のシステムに勝つにはとにかくスピードだった」と、プロジェクトを率いた北 周介氏(執行役員 CX本部長)は振り返る。実際、ボタンを押したタイミングで約定する外貨預金システムのリアルタイム取引を、業界で初めて実現した。

 快適性も重視した。画面遷移を極限まで減らし、1画面で取引できるレイアウトに。スマートフォンやタブレットにも対応し、「タッチ」して操作しやすい画面を取り入れた。

 さらに金融機関の取引システムである以上、セキュリティと事業継続性(BCP)という「安心・安全」の非機能要求は大前提となる。このように同社では、「安・速・快」という三つの非機能要求を実装してこそ、高い価値を創出できると考えた。

「ユーザー」が非機能に目を向ける

 ここ最近、ビジネス要求として「非機能」を重視する動きが広がってきた。「経営層は投資対効果とともに、セキュリティとBCPへの関心が特に高まっている。一方の業務部門は、性能や停止時間、ユーザビリティーを強く要求するようになった」と、あるITコンサルタントは説明する。

 もっとも、非機能要求を重視する動きは今に始まったことではない。代表的なのは、2010年に大手ベンダー6社が共同で策定した「非機能要求グレード」である。非機能要求グレードは、発注側が要求する非機能について、可用性や性能・拡張性といった六つのカテゴリーに分け、全部で236項目のメトリクス(指標)とレベル(グレード)を定義している。現在は情報処理推進機構(IPA)が公開し、誰でも無償で利用できる状況だ。